60 チェルシー
「あなたはチェルシーよ」
ギギとレブの会議の結果、ビノードの名前がチェルシーとなりました。パチパチ~。
しかし、チェルシーって。いや、ギギとレブが決めたならオレに文句はないよ。いい名前だとは思う。だが、チェルシーはセーフなんだろうか? なにかに引っかかったりしないか? 固有名詞は大丈夫か?
元の世界のルールに引っ張られがちだが、まあ、ダメならそのときだ。チェルとか愛称にしたらいいだろう。たぶん……。
「レブ。チェルシーはお前が面倒見ろ。オレではこいつがなにを考えているかわからんからな」
なんかチェルシーに懐かれているのはわかるが、モンスターの考えなど人以上にわからんわ。
「チェルシーはレオ様が好きだって」
それはライクか? ラブか? オスとかメスの生物上からくるものならノーサンキューだぞ。オレは一生ギギラブなんだからな。
意識や思考が人間よりなので、チェルシーがすり寄ってきても欲情はまるでなし。いや、人間にも欲情しなくなってる。オレはオスとして失格なんじゃなかろうか?
オスとしてのアイデンティティーが。なんて思わくもないが、今さらどうしようもない。人にも成れず獣にも成れないのならオレになるまで。子孫繁栄より自分を満足させる生にするまでだ。
マイノカの町に戻ってきてレブとチェルシーは受け入れられている。
まあ、オレが認めたなら従うしかないのだが、それでも受け入れるのが早い。チェルシーが町中を歩いていても驚く者はいない。それどころか拝んでる者すらいるくらいだ。
「レブも町の連中と話すようになったな」
最初のうちはオレもついて回っていたが、受け入れられてからはついてってない。レブに任せっぽなしだ。
「はい。白の巫女として神聖化してましたね」
そう言うギギも神聖化されていて、気軽におしゃべりしてくれないと嘆いていたよ。
「レオガルド様。毛繕いしますね」
毛繕いくらい自分でもできるが、やはりやっぱりもらうのは気持ちがいいし、隅々までやってくれるので綺麗になる。
まあ、ギギ一人では大変なので巫女の仕事となった。ゴゴール族の巫女が前半を受け持ち、後半をゼルム族の巫女が受け持っている。
「やはり夏に近づくと抜け毛が多くなりますね」
虎系のモンスターも夏毛冬毛があり、オレも冬は多くなり、夏になると少なくなる。と言うか、ゲルボアルの特性か、結構毛の生え変わりが激しかったりするのだ。
「落ちた毛は洗って糸にするので残さず拾ってくださいね」
未だに自分の毛で服とか作られるのに抵抗がある。オレの感覚では自分の毛で編まれたものなんて気持ち悪いものでしかないのだ。
「残さずって、そんなに需要があるのか?」
ミナレアの民からミバール(綿花っぽいやつ)が大量に流れてきて、人間たちの手で織物にされている。着るものには困ってないはずだ。
「レオガルド様の白い毛はとっても綺麗で丈夫。獣避けにもなりますからね。皆さん欲しがるんですよ」
毛にもオレの霊力でも宿っているのか、小型の獣なら寄ってもこないそうだ。まあ、家畜まで逃げてしまうので誰でも着れてはいないらしいよ。
「レオ様。ただいま」
「グルル」
散歩に出ていたレブとチェルシーが帰ってきた。
「レブ。チェルシーの毛繕いするからこっちにきて」
チェルシーの毛もオレの毛とは違い人気があった。
特に呪いにかかったベイガー族には大人気。農業村からわざわざもらいにくるほどだ。
「レオガルド様の毛と絡ませることができたらいいんですけどね」
プラスとマイナスが打ち消すが如く、オレの毛とチェルシーの毛を絡めると強度が弱くなるのだ。
「チェルシー。日に日に理性が生まれてきてますよね」
そうなのだ。モンスターとして生きていたのに、町の者を襲うことはなく、レブの言うことを聞いている。腹を空かせても騒ぐことなく我慢しているのだ。
「レブには特殊な力があるのかもな」
ビーストマスター的なものがあるんじゃないか?
「はい。綺麗になったわよ」
すっかり飼い猫と化したチェルシーは、ギギをベロンベロンと舐めて感謝を表していた。
「レブ。チェルシー。食事にいくぞ」
オレらの食事は基本一日一回。約三から五トンの獲物を食えば一日は間に合う。ただ、自然界だと毎日食えるなんてことはない。食えないときは何十日と食えないときはある。
と、レブがチェルシーから感じ取ったそうだ。
「レブ。お弁当よ」
「ありがとー、ねえ様!」
ギギから弁当をもらい、チェルシーに跨がる。
充分な食事。充分な睡眠。そして、充分な運動をしているからか、レブは獣人としての身体能力を身につけた。
他の獣人よりは劣るものの、チェルシーの背に乗ることは朝飯前。手綱もなしにチェルシーの背に跨がっていられた。
「レオ様! あっちにモンスターがいるよ!」
チェルシーと意志疎通できる能力はモンスターの位置もつかめる力もあり、オレの鼻より高性能。数十キロ先にいるモンスターを見つけることができるのだ。
「正面からいく。後方から襲え」
「はい! チェルシーいくよ!」
レブがいることで狩りが本当に楽になった。
以前ならオレの気配にいち早く感ずいて逃げてしまっていて、草食系モンスターにはほとんど逃げられていたのだ。
方向がわかれば風下から狙うことができ、射程圏に入れば臭いをつかめる。そうなれば逃がさない。
この臭いは、草食系モンスターでトリケラトプスみたいな姿をしているミバリオだ。
家族単位で固まり、常に移動している。嗅覚もよく、脚も速い。オレの中では捕獲レベルAの存在である。
ちなみに草食系モンスターはBでも狩るのは一苦労である。
獲物の正面から襲いかかり、逃げ出したところをチェルシーが襲う。
狙うのは子だ。親は狙わず、手頃な子を二匹を狙う。
子とは言え、サイズは大人なサイくらいはある。明日まで腹を満たすには充分である。
「いただきます!」
そう言ってミバリオの子を狩って腹を満たした。




