59 適材適所
「あなたはレブよ」
アルビノ少女の名前がレブと決定した。
産まれてから隠されて生きてきたせいか、レブはあまり言葉を知らず、自分の名前も知っていなかった。
レブの親も村の者も食われてしまい、どんな理由があったかは永遠に謎のままだが、この村の者の話では生け贄にしようとしていたんじゃないかって話だ。
生け贄か。元の世界にもあったが、一人の命で災いがなくなる思考がよくわからない。あれか? 神社で五円玉を賽銭箱に入れたら願いが叶えられる理屈か? まあ、オレは百円入れて願ってたけど。
コミュニケーションを取ってこなかったからか、レブは消極的だ。ギギがしゃべりかけても反応は薄い。
そういや、人の精神的発達は幼児期間に作られるとか聞いたかとがある。狼に育てられた子供も言葉を教えたり意思疎通できたりするのが大変だったみたいだからな。
「困りましたね」
「気長にやるしかないさ」
暴れたり騒いだりしないだけマシだろう。言葉もなんとなくわかっている感じだしな。
謎触手でレブを絡ませ、背に乗せる。
「しばらくはオレの背に乗せる。他と違うから生け贄なんてなくしたいからな」
「そうですね。それがいいと思います。レオガルド様が認めたら誰も否定はしませんしね」
ギギが認めてくれたなら心強い。と言うことで、ゴゴール族の村回りはレブを背に乗せてることにした。
まあ、ギギともスキンシップがしたいから、謎触手に乗せて移動した。
移動中はギギが中心になってレブにしゃべりかけ、オレも必要以上にレブと呼んでやり、スキンシップをしたり夜はオレのモフモフをさせてやった。
冬の間、ゆっくりとゴゴール族たちの村を回り、オレの縄張りであることをモンスターや獣に教えてやった。
「レオ様」
冬が終わりになる頃、レブがやっとオレを呼んでくれた。まあ、レオガルドとは呼び難いようでレオ様になってしまったがな。
「……わたしのほうが長く接してるのに……」
先に名を呼ばれたことにギギが拗ねている。すまんな、ギギ。モフモフは最強なのだよ。
「わたしもモフモフします!」
へそ天のポーズになり、ギギとレブにモフモフさせてやる。思う存分モフるがよい。
アニマルセラピストみたいになってよかったのか、レブに笑顔が増えてきた。
「すっかりレオガルド様に懐いてしまいましたね」
「ギギにも懐いているだろう」
自分のことをねえ様と呼ばせていることをオレは知っているぞ。
「レオガルド様。そろそろマイノカに戻ろうと思うのがどうだろうか?」
陽気も春になってきた頃、ゼルからそんな相談をされた。
「そうだな。村も最低三回は回ってゼル王を知らしめることができたしな、帰るか」
ブランボル村へと戻り、長老たちに帰ることを告げた。
「そうですか。わかりました」
元々春には帰ることを伝えてあるので、帰ることに異を唱える者はいなかった。
「レオガルド様に仕える巫女たちを選びましたので、お連れくださいませ」
夜、別れの宴のときにゴゴール族の女が連れてこられた。あ、そんなこと言ったっけ。
「お前たちにはマイノカに移って生活してもらう。だが、人質ではない。マイノカの暮らしを知ってもらい、他種族との関係を繋ぐ立場になって欲しい。それに、故郷に帰りたいときは帰っても構わないし、好きな男ができたら結ばれてもいい。もし、残りたいと言う者がいたら残っても構わない。オレが許す。もし、認めない者がいるならオレが裁いてやる」
無理矢理決められたわけじゃなかったのか、拒否する者はいなかった。なんでや?
「巫女になればいっぱい食べられると説明したらたくさんきて選ぶのに苦労しました」
食い物に釣られたんかい! いや、食べるのがやっとのところじゃ当たり、か?
「よく仕え、よく働き、正しく生きろ。オレはそんな存在を守護する」
巫女の前でそう告げる。まだ教義とかないが、方向性は伝えておくべきだからな。
フレンズな獣人たちに見送られ、マイノカへと帰路についた。
「ん? この臭い」
虎っぽいモンスター──ビノードの臭いが風に乗って流れてきた。
「ゼル王。モンスターだ」
風が流れてくるほう向き、ゼルたちに警告する。
「銃士隊、前に!」
「ギギ。巫女たちを守れ」
ギギにはレイギヌスの短剣を持たせてある。封印された鞘から抜けばモンスターは近寄ってこないだろう。
「レブはしっかりつかまっていろ」
ビノードていどならレブが乗っていてもハンディキャップにもならないさ。
こちらが警戒したのがわかったのか、ビノードが木々の間から現れた。
「レブ。怖いか?」
「レオ様がいるから怖くない」
いい子だと、謎触手で頭を撫でてやった。
「ギュルルル」
襲ってくるか? と思いきや、ビノードが尻尾を内股に入れて身を縮めた。
「……レオガルド様。あれは……?」
と問われても困る。ビノードの生態なんて知らんし。
「ギュル。ギュルルル」
「随分と弱々しく鳴いてるのな?」
「……仲間になりたいって……」
レブがボソッと口にした。
「あいつの言っていることわかるのか?」
獣なオレにはさっぱりなんですけど。
「言っていることはわからない。そう思ってるって感じただけ」
あれか? 万物の声を聞けちゃったりする系か? それともテレパス系か? いや、呪霊か?
銃士隊を下がらせ、ビノードの前に出る。
「レブ。こいつに触れてみろ」
謎触手を操り、ビノードの前にレブを置いた。なにかしたら八つ裂きにしてやるからな! との念を送りながら。
ビノードは尻尾を内股に入れたままで、レブが触っても暴れたりしなかった。
なにかキツネだかリスだかわからん動物を懐かせるアレな感じがレブから出てるのか、ビノードがひれ伏した。なぜに?
「レオ様に従うから一緒にいたいって」
どうするとギギを見るが、ギギはゼルを見て、ゼルはオレを見た。
「レブ。お前がこいつを従えさせろ」
謎触手を絡めてビノードの背に乗せた。
丸投げと言うことなかれ。これは適材適所です。




