34 オウノミトヤトア
ミドットリー島に上陸する。
ぶるぶると体を揺らして水滴を振り払う。猫だな、ほんと。
「レオガルド様!」
潮に流されたようで目標地点がズレてしまい、男が迎えにきてくれた。
男に案内されて向かうと、髭が伸びに伸び切った男たちがいた。
セオルたちと人種が違うな。セオルたちが西洋人だとすると中東辺りの顔立ちをしている。
「言葉からしてオアール人です。マイアナと言う宗教国家もパラゲア大陸に開拓船を出していると噂で聞いたことがあります」
また不穏なキーワードが出てきたよ。神はそんなにオレに試練を与えて楽しいのか?
なんて愚痴を言ってもしかたがないか。この世に運命をはあっても宿命はない。どう生きるか決めるのはオレ自身。オレが動いた結果が未来を築くのだ。
「代表者は?」
オレの姿にビビるオアール人たち。まあ、無理はないよな。
「代表者、前に出ろ!」
こちらの代表的男が声を荒げながらオアール人の代表者を前に出させた。
「オレはレオガルド。見ての通り、獣だ」
と言う自己紹介もどうなんだろう? 理解されてるかな?
「ここに流れついてどのくらい経つ?」
「……よ、四年くらいになります……」
四年か。そりゃ長いこと。命的にも精神的にもよく死ななかったものだ。
「グダグダ言うつもりはない。所属する国、信じる神を捨ててこちらの決まりを受け入れるなら助けてやる」
特に信じる神は捨ててもらわなくちゃ連れていけない。宗教国家が信じる神など厄介この上ないからな。
「どうだ?」
と言って受け入れられたら苦労はしないか。国や宗教は根深いからな。
「……神を捨てなければいけませんか……?」
「ダメだ。こちらには人間ではない種族もいる。人間のための人間しか許容できない神の教えなど害でしかない。オレに頭を下げることもできないのならここで死ね」
冷たく言い放つ。
「一日待ってやる。よく考えろ」
船員たちを下がらせ、小舟へと戻った。
「ご苦労さん。波が穏やかなうちに戻れ。明日までオレが残るから」
「明日、波が高い場合はどうしますか?」
「オレの背に乗せる。そうゴルティアに伝えてくれ」
「わかりました。お気をつけて」
船員たちを見送ってからオアール人のところに戻った──が、もう誰もいなかった。まあ、待っていろとも言ってなかったしな。しゃーねーか。
「島を探険してみるか」
まずは海岸線を歩いて島を一周してみる。
船の残骸か漂流物が多い。潮の流れ的に集まりやすいのかな?
それほど大きい島ではないので二時間もしないで一周できたが、大きな川はなく小川ていどのものばかり。これでよく生き残れたと思うわ。
これと言ったものはないので森の中に入ってみる。そのまま山頂へと向かい、島の全容を眺めた。
「小さい島だ」
歩いた感じからして島の周囲は十キロもない。近くに島もないから獣も泳いで渡れない。生態系は最悪な場所だろうよ。
もっと時が過ぎれば利用価値も出てくるだろうが、今の段階では手間をかけてまで利用する価値もないな。
「いや、帝国やらマイアナが出張る前にレオノール国の領地としておいたほうがいいか?」
帝国がある大陸からここまでに島はないと言う。なら、この島はパラゲア大陸攻略の最前基地となるかもしれん。取られるくらいなら先に取っておくか?
ただ、そうなると食料は運ばなくちゃならないし、人を置かなくちゃならなくなる。う~ん。今の段階では無理かな~。
「今はどうしようもないな」
この問題は先送りだ。帝国が大艦隊を引き連れてきてもこの島に上陸することはないはずだ。ミドットリー島の周辺は岩礁が多いからな。
「と言うか、今日のメシのことを考えてなかったわ」
しょうがない。海で魚でも獲るか。オレの胃を満たしてくれる魚がいるといいんだがな~。
のんびり海に向かって下山していると、若い男とばったり会った。
……オアール人じゃなく、東洋系だと……!?
驚いている間に若い男は腰の剣を抜いた。に、日本刀?!
「お前、異人か?」
「しゃ、しゃべっただと!?」
ん? もしかしてオアール人たちと一緒に住んでないのか?
「それを下ろせ。オレはレオガルド。パラゲア大陸の獣だ。沖にいる船でやってきた」
驚きながらもこちに敵意がないとわかったのか、日本刀を鞘に戻した。
「……お、お前はいったい……?」
「ちょっと賢い獣だ。お前は、オアール人ではないよな? 異人か?」
転移してきたならラッキーなんだがな。
「異人? おれはトーヤの生まれだ」
「トーヤとは地名か? 国名か?」
「国名だ」
「そうか。名は?」
「オウノミトヤトア。オウノミトが姓でヤトアが名前だ」
ファンタジーによくある東方の国ってか? よくあるなら呪霊じゃなく魔法であって欲しかったよ!
「なら、ヤトアと呼ばせてもらおう。ヤトアは、オアール人とは一緒に暮らしてないのか?」
「ヤツらとは暮らしが合わなかったからな。一人で生きていた」
やはり、宗教国家のヤツは面倒臭いようだ。
「もし、国と信じる神を捨てるなら連れてってやるが、どうする?」
まあ、聞くまでもない顔つきだがな。
「国などとうの昔に捨てたし、神など信じたことはない。連れてってくれ!」
「いいだろう。だが、今から腹を満たしにいくんでな。明日の朝、浜辺にこい。オアール人にも同じことを尋ねたからな、その結果待ちだ」
「あいつらに神を捨てられるとは思わんぞ。朝昼晩と神に祈っているからな」
「それなら見捨てるまでだ」
同情はあっても人道とかない。神を捨てられないのならオレが捨ててやるまでだ。
「じゃあ、明日の朝にな」
「ついていく。荷物もないんでな」
好きにしろと、海に向かって歩き出した。
黙れ小僧! 的な?




