26 黒曜石
一度、実力の差もわからんヘラジカのようなモンスターが襲ってきたが、電撃一発でご臨終。美味しくいただいてから再出発して、その日の夕方にフレンズな獣人たちに追いついてしまった。
「随分とゆっくりしてるな。どうかしたのか?」
フレンズな獣人も脚力はあるから一日で三十キロくらいは移動できるはず。なのに、二日目で五十キロ進んでないぞ?
「ミドンに襲われた」
ミドン? なんじゃそりゃ?
「蛇のように長く、脚が沢山ある堅い蟲だ」
ああ、大百足のことか。よく出る蟲だよ。
「まったく、蟲は好かんな」
大百足は堅いだけで食うところもい。なんかピリッとした毒っぽいのもあったしよ。
「で、倒したのか?」
「いや、逃げるだけで精一杯だった」
まあ、オレの爪でも表面を削るくらいしかできなかった。フレンズの獣人たちでは到底太刀打ちできんだろうよ。
「あいつは、熱で獲物を識別しているから泥を体につけるなり、火を焚いて誤認識させたらいい」
どこぞのプレデターみたいだが、見えるだけマシだろう。雷で死ぬしな。
「レオガルド様、それは本当なのか?」
「試してみればいいさ」
大百足──ミドンはよく出るからな。
「倒し方も知っているのか?」
「まあ、オレは雷で倒しているが、お前らなら油を顔にかけて火をつけて熱を感じれる器官を潰して死ぬのを待つ、だな。あとは罠で仕留めるかだ」
ミドンは熱を感知できる器官──鼻の辺りにある赤いところで感知している。そこが弱点ようで、そこを潰すと凄い勢いで暴れ、数時間で動かなくなったっけ。
「油か。なかなか貴重な倒し方だ」
「銃で撃つのも手だな。まあ、当てられたら、だが」
重要な器官は繊細。フリントロック式の銃でも器官は壊せるはずだ。
「銃とは恐ろしいのだな」
「別に弓矢でも槍でもいけると思うぞ。要は威力があるものでそこに当てればいいんだからな」
ゼルム族やフレンズな獣人なら可能なんじゃないか? ミドンから逃れられる身体能力があるんだからな。
「レオガルド様はよく見てるのだな」
「強者驕るべからず。弱者侮るべからず。敵は常に自分より強いと思って挑め、だ」
こう言うことは常日頃から言い聞かせて習性として根づかせる。それが将来、国民性と繋がるんだからな。
「せっかくだからここで夜営するか。ゼル。狩りにいってくる」
オレはいつでも現地調達。木を伝っていた金毛の猿を狩り、夜営地へと持っていく。
「ミーノだと!?」
こいつ、ミーノって言うんだ。
「こいつの毛皮を剥いでくれ」
金色の毛は珍しいから、剥いでコートにしてもらおう。ギギが使っていた冬用のコートが古くなっていたからな。
「ゴゴールは皮を鞣す技術はあるのか?」
何人か皮のベストを着ているが。
「ある。我らは毛が少ないからな」
知的生命体になるだけはあるってことか。フレンズな獣人になる進化は想像もできんけど。
「なら、頼めるか?」
「使わないところはもらっていいか? ミーノはなかなか狩れないので」
「人間が着れる分以外は好きにしたらいい」
ミーノはゴリラくらいのサイズ。二割もあれば足りるだろうよ。
「感謝する」
フレンズな獣人たちは黒曜石のようなナイフで解体していった。新石器時代か?
「その黒い石は簡単に取れる石なのか?」
よくよく見ればフレンズな獣人たちが持つ槍には黒曜石なものが使われている。ナイフも全員持ってるし、浸透しているものっぽい。
「え? ああ、よく取れる」
「鏃や槍先にしたりできる者は多いのか?」
「あ、ああ。作り手は多い」
ってことは相当昔から使っているってことか。
「そうか。なら、ミーノの皮と黒い石の刃と交換してもらえるか?」
前に包丁が不足しているとギギが言ってたのを思い出した。
「いいのか? こんなもので……」
「それがいい。あと、首を飾るようなものを作ってくれ。女が喜びそうな形のやつを」
新石器時代でも首飾りはあった。なら、フレンズな獣人たちも首飾りとかあるはずだ。
「これでか? 石だぞ?」
「石には力が宿る。その黒い石には災いを遠ざける力がある。と言っても微々たる力しかないがな」
お守りていどのもの。まあ、ギギへのお土産だな。
「……そうなのか……」
あれ? マジにしちゃった感じ? ちゃんと微々たる力って言ったよね? 変な勘違いしないでくれよ。
なんか変な方向に話がいってる気がしないでもないが、まあ、迷信とか信じられている地だ。信じる者は救われるならそれでいいだろう。
剥いだミーノを美味しくいただき、明日のために早く寝た。
朝になり、フレンズな獣人たちの先導で出発──したらミドンが現れた。
……昨日のはフラグだったようだ……。
「レオガルド様! やっていいか!」
「好きにしろ。あ、レイギヌスが効くかも確かめてくれ」
「わかった」
蟲にも効くか知っておきたいからな。
「お前らは下がっていろ」
フレンズな獣人たちを下がらせ、オレも戦いに巻き込まれない位置へと下がり、ゼルたちの戦いを観戦する。
オレを標的にして訓練したからか、ゼルたちの動きに迷いはなく、冷静に対応している。
普通の弾はミドンの甲殻に弾かれ、鉄の槍も弾いてしまった。
ゼルたちもミドンがどんなものかを確かめながら戦いをし、適度なところでレイギヌスの弾を撃ち込んだ。
どんな原理かわからんが、レイギヌスの弾は甲殻を突き破ってしまった。
「……呪霊、マジパネーな……」
確実にオレを殺せるものだわ。
とは言え、即死させる力はなく、毒を食らったようにのたうち回っている。
別の者が鉄の弾で熱を感知できる器官を撃ち抜くと、さらにのたうち回り、一分くらいして動かなくなってしまった。
「……レイギヌスか……」
モンスター相手なら無敵だな。これは本格的に対抗手段を考えておかんとな……。
「ご苦労さん。手応えはどうだった?」
なにはともあれ蟲にも効くことはわかった。いい収穫と言えよう。
「背筋が冷たくなった。人間とは恐ろしいのだな」
「なら、今から対抗手段を考えておくことだ。恐ろしいと理解したのだからな」
俯くゼルを軽く頭突きする。
「そう、だな。知は力なりだったな」
フフ。いい感じに成長していてなによりだ。




