212 ギャンブル
騎士たちの準備が調ったので、ゼルも呼んで模擬戦を使節団にお披露目した。
オレも使節団と一緒に観るので、裏方はヤトアたちに任せ、さらに裏方としてレブとチェルシーに潜んでもらっている。
「凄まじいものですな」
まずは騎士たちの旗奪い──まあ、鬼ごっこだな。ただ、ぶつかり合い、槍での攻撃ありなので、ミロウドたちには乱暴に見えるだろうよ。
「これはまだ準備運動のようなものだ」
説明役はオレ。この場を仕切ってるのはオレなんだからオレがやるしかないんだよ。
旗奪いが終われば駆けっこ。まあ、駆けっこってレベルではないが、余興でミロウドたちに賭けさせた。
「一等を当てた者にはこれをやろう」
海で見つけた魚の鱗だ。その鱗にゴゴールの職人が模様を彫って首飾りにしたものだ。
「奥方への土産とするといい」
レオノール国から持ち出すものは一旦国に差し出すはず。個人的に渡せば取り上げられることはないはずだ。
「それは当てないといけませんな!」
この時代でも賭けはあるはず。いや、賭けは何百年前からあるか。
オレは賭け事はしてこなかったが、賭けが人を熱くすることは知っている。ミロウドたちもどの騎士が勝つか話し合っているほどだ。
「レオガルド様、よいのか?」
ゼルがオレの耳元まできて囁いた。
「これから先、レオノール国の民も賭けを覚えるだろう。その賭けがどういうものか人間を見て学べ。無知のまま進めば賭けは害を生むが、知識を持てば国を富ませる。問題の根本を学ぶんだ」
人間と交流していれば賭け事は嫌でも伝わってくる。ならば、国主体での賭けをして管理すればいい。
それでも問題は出てくるが、それを越えてこその国営ギャンブル。一つ一つ乗り越えていけ、だ。
何度か人を代えて競争を行い、その日は終了とする。
一等を当てた者は二人いて、賞品として鱗の首飾りを渡した。
「いい土産になります!」
「ああ。それはよかった。家族に教えてやるといい」
これもレオノール国の宣伝。正しく伝わるようにする策でもある。
あとのことはゼルに任せ、オレは騎士のとかろに向かった。
「よくやった、お前たち。いい戦いだったぞ」
見せ物にした騎士たちを労いと賞賛してやる。
「特に第二試合、あれはよかった。いい走りだったぞ」
騎士全員の顔と名前を覚えてないので曖昧に褒めておく。
「またお前たちの走りを見せてくれ」
褒めに褒め、期待を持たせて騎士たちのやる気を高めてやった。
「ありがとうございます! もっと走りを極めてレオガルド様を満足させてみます!」
「ああ。楽しみにしているぞ。だが、今日はゆっくり休めよ。明日は使節団を驚かす戦いをしてもらうんだからな」
明日が本番。今日の疲れを明日に持ち越してバルバに負けました、では笑い話にもならない。確実に勝ってもらわなくちゃならないのだ。
「はい! 明日も我らの戦いをお楽しみください!」
「ああ、もちろんだとも」
去っていく騎士を見送り、消えたらヤトアたちが現れた。
「師匠は口が上手いな」
「爪と牙で人は纏まらないからな」
恐怖支配など愚の骨頂。自らやる気を出せない社会に先はない。
「バルバはどうだ?」
「チェルシー様が威嚇して抑えてますが、油断すると逃げ出します」
まあ、弱肉強食な世界で生きているモンスター。諦めたら食われると身をもって知っている。隙を見せたらすぐに逃げるだろうさ。
「少し、脅しておくか」
戦意消失されないていどに脅しておこう。明日は派手に暴れて回ってくれないと困るからな。
レブとチェルシーが見張っている場所に向かうと、樹々の陰に隠れて威嚇していた。
「レブ、チェルシー、ご苦労様な」
「ううん、大丈夫だよ」
「ガウ!」
見張りだけでも大変なのに、まったく嫌な顔をしないレブ。チェルシーは嬉しそうにオレにスリスリしてきた。
「オレが見張っているから食事をしてこい」
「うん。いってくる」
「ガウ!」
「ロズル。付き合ってやれ」
同じゴゴールなだけにレブを崇拝しているロズル。付き合わせてやろう。
狩りに向かったらバルバにちょっと威嚇して大人しくさせ、ヤトアとゴードにバルバのエサを探しに出させた。




