200 蜂
巫女温泉はゼルム族から高い評価を受けた。
まあ、水風呂やサウナを好んでいたから当然と言えば当然なんだろうが、好きなことには俄然やる気を出すのがゼルム族。雪が解けてきたら巫女温泉までの道を整備し始めた。
前に大きな樹は切り倒していたので、道の整備はそれほど苦ではない。騎士たちも混ざってどんどん道が整備されていった。
オレも手伝ったので、春の間に道は完成。これで終わり──とはならず、巫女温泉に移り住む者が出てきた。
「水がないが、大丈夫か?」
一応、川はあるが、飲める川は一キロくらい離れている。運んでくるの大変じゃないか?
「水路を造ります」
事もなげに言う。ほんと、こいつらは一旦火が点くと全力全開なヤツらだよ。
川までは拓いてやり、あとはゼルム族に任せた。なにもかもオレがやったんでは技術は身につかないからな。
巫女温泉の向こう側、火山帯を越えると、そこは猪がたくさん生息する地だ。
猪はレオノールにもたくさんいるから滅多にくることはないが、こちらには蜂がたくさん生息している。
まあ、この大陸の蜂だ。当然のように元の世界のようなサイズではない。ゼルム族の上半身くらいはあるデカブツだ。
蜂の巣も崖一面に作られており、なかなか気持ち悪い。集合体恐怖症なヤツが見たら悶絶することだろうよ。
襲ってくる蜂を放電で気絶させ、風で吹き飛ばす。
「ヤトア、ゴード、ロズル、集めろ」
作業用員として連れてきた弟子たち指示を出した。
この世界でも蜂蜜は貴重だ。どの種族にも喜ばれるものだ。しっかり集めろよ~。
三人が集めたものを樽に入れ、溜まったら樽を背負って巫女温泉へ運ぶ。
今はまだ掘っ立て小屋しかないが、ゴゴール族もやってきて、百人規模の村となってしまった。
人数が増えて、食生活が向上すると、甘いものが欲しくなるのは世界が違えど同じだ。メープルシロップ的なものでは足りなくなって蜂蜜を採りにきた、と言うわけだ。
「あまり食いすぎるなよ」
我先にと蜂蜜に群がる子供たちに注意し、また新たな樽を背負って戻った。
何度か往復していると、なかなか大きな鎧竜の臭いを嗅ぎ取った。
「鎧竜、蜂蜜を食うんだ」
オレがいることを気づいているようで、隠れるように蜂の巣を食っていた。
草食だから草しか食わないのかと思ってたわ。
「ん? また鎧竜かよ。結構いるのな」
新たに二匹現れて蜂の巣を食い始めた。
今日は一匹食ったので、その三匹は見逃して蜂蜜を運ぶことに集中した。
「師匠。この蜂の羽根、持って帰りたいんだが」
そろそろ暗くなってきたので、今日の作業を終わるかと三人に伝えようとしたらヤトアがそんなことを言ってきた。
「羽根? なにするんだ?」
「窓に張ろうかと思ってな。この透明な羽根ならいい明かり取りになると思ったんだ」
窓にしようってことか。
「そうか。じゃあ、ヤトアとゴードは羽根を集めろ。ロズルは羽根を纏める蔓を集めてこい」
「あ、そうだ。蜂の子はどうする? ロズルの話ではゴゴール族は蜂の子を食うそうだ」
「あー。巣があるんだから子はいるか」
そんなこと意識にもしなかったよ。
ヤトアに蜂の子を持ってきてもらい、味見に食ってみた。
「……悪くはないな……」
甘味、かな、これは? 甘いがどんな味だったか忘れてしまったが、滑らかな食感がして、ふんわりと口の中に甘味みたいのが広かった。
一匹じゃわからんので数匹纏めて食ったらピーナッツの味がした。
「ゴゴールはこれを美味いと感じるのか?」
ロズルに尋ねる。
「滅多に食べれるものではないので、皆が好きかはわかりませんが、狩りをする男たちには人気です」
ロズルも一匹つかんで丸かじり。美味そうに食っていた。
「なら、蜂の子も持って帰るか」
籠を作り、蜂の子を詰めて巫女温泉に持ち帰った。
「美味しいです!」
ゴゴール族の女に食べさせてみたら喜んで丸かじり。なかなかスプラッター絵面だが、ゴゴール族には蜂の子は大人気だった。
ゼルム族はもちろん、人間には不人気なので、持ち帰った蜂の子はゴゴール族の胃に消えてしまった。
蜂蜜は樽三十個となったので、他の町にも運んでやるか。
一旦火マイノカへ運び、チェルシーやミディアに背負わせて各地の町に運ばせた。
この頃には陶器ができていたので蜂蜜を移し、各家庭に分けてやった。
「蜂蜜を混ぜたホットケーキは美味しいですね」
ゴノを使ったホットケーキなので小麦粉から作ったホットケーキの違いはわからないが、食べている者らは喜んでいる。
「そうか。毎日は無理だが、ちょくちょく食えるように採ってくるよ」
ギギや子供たちの笑顔を見てると毎日食べさせたくなる。が、肥満になっても困る。ときどき食べられる貴重なもの、ってのがいいだろう。
蜂の子をつまみながらそんなことを思った。




