198 レオノールの子
農業村の秋が終わり、冬が始まろうとしていた。
「さすがに灰色熊もいなくなったな」
周辺に巣を作って住み着いていた灰色熊も毎日狩っていたら全滅させてしまった。冬に近づくにつれ、油が乗ってきてたから本能に勝てなかったよ。
ハァーとアンニュイな気持ちに捕らわれていたが、なんの奇跡かティラノサンダーの群れが現れてくれた。
「レオ、あれがティラノサンダー? なんだか凄く美味しそう!」
まあ、美味いのは確かだが、Sランクのティラノサンダーだ。同等のが現れても危機は感じないようだ。
「ガウガウ!」
「チェルシーも美味しそうだって!」
それはなにより。じゃあ、二匹でやっておしまい。
ティラノサンダー五匹と守護聖獣二匹の戦いが始まり、難なく三匹を瞬殺してしまった。
一匹はSランクだったが、残りはAランクに届くかどうかの雑魚。SSランクに届きそうなチェルシーとミディアの敵ではない。それから逃れたAランクのヤツが秀逸ってことだろう。
「ミディア! そいつは逃せ! しばらくしたらあとを追うぞ! 巣があるかもしれんから!」
ティラノサンダーは渡り歩いているみたいだが、どこかを拠点にしているかもしれない。あるなら一度見ておこう。
一匹は逃がし、二匹でSランクのティラノサンダーを狩った。
「美味しい!」
「ガウ!」
珍しくも二匹の味覚が合ったようだ。
「一匹は村に持ってってやろう」
熊ロスをティラノサンダーで払拭したら一匹を村に運んだ。
今年は豊作で山羊が増えてきたが、モンスターの肉は栄養があるとゼルム族以外は喜ばれる。
「ハンバーグ、美味しいです」
贅沢にもティラノサンダーの肉をミンチにして塩と玉ねぎ、香辛料(この大陸で採れたヤツね)を混ぜ、石の板の上で焼いたものを美味しい美味しいと食べるギギ。
もう三十に届きそうな年齢になったが、出会った頃のままの笑顔がなんとも可愛いものだ。
「たくさんあるからいっぱい食べろよ」
フォークをつかんだ謎触手で焼けたハンバーグをギギの皿に乗せてやった。
「もうそんなに食べれないですよ」
それでも乗せたくなる親心。何歳になろうとオレの中では十歳の頃のままで止まっているのだから仕方ないのだ。
「リドリル。雪が降る前にオレたちはマイノカに帰る。気をつけて冬を乗り越えるんだぞ」
横にいるリドリルに声をかける。
ギギに構いたいが、この場はリドリルの立場を強化するためのものであり、ベイガー族もちゃんと気にかけているってことを教えるためのもの。ちゃんと気にかけてやらんとな。
「はい。今年も誰も死なせません」
「死なせないどころか増やしているだろうが」
種族は違えど酒の席では下ネタは笑いになる。まだ性が緩い時代。いや、子を残すことが当然な時代か。そんな時代に子をなさないギギはどう思われているんだろうな?
ギギには幸せになって欲しい。これにウソ偽りはない。オレはそのためにレオノール国を創り、守護聖獣になったんだからな。
愛しい男を見つけて子をなせ、と言ったことはある。
だが、ギギはオレといることを選んでくれた。きっとオレが寂しがらないようにしていてくれるのだろう。
それが嬉しいと思う反面、申し訳ないとも思う。
「レオノール国に生まれる子供はレオガルド様の子でありわたしの子です。元気な子をわたしたちに見せてくださいね」
オレの気配を感じ取ったのか、謎触手に抱きしめて集まった者たちにそう告げた。
酒の席が静まり、ベイガー族のすべてがオレたちにひれ伏した。
「子を産み、育て、レオノール国のために役立たせてみせます」
リドリルの子供の頭を謎触手で撫でてやる。
「元気に育て。それがオレたちの願いだ」
巫女たちに目配せして歌を歌わせた。豊穣を祝う歌を。
「厳しい冬が始まる前に豊穣の秋を祝え。そして、いい春がくることを願え!」
子供たちをオレの背に乗せてやり、笑い声を酒の席に響き渡らせた。




