150 婿候補
ルゼを連れての視察は続く。
「まず、道を作っておくか」
「道、ですか?」
「ああ。町は十年先を見て作っていかなくちゃならない」
なんかの本で読んだ受け売りだが、都市計画は十年単位で見ていったほうがいいだろう。十年前にミナレアがこうなるなんて誰も予想できなかったんだからな。
磁石で東西南北を調べ、マイノカへ続くほうが南。ってことは南道ってことになるのか? 門がしっくりくるが、まだ門を造るほどでもないのだから道でいいだろう。
今思うと、パラゲア大陸は北半球にあるのだろうか? 四季があるし。ただ、植生や獣の多さから南半球っぽいんだよな~。ほんと意味わからんわ。
「人が増えれば町は広がり、発展すれば新たな町が必要になる。このまま人が増えていけば五年後には町は倍の広さになるだろうよ」
今は千五百人は超えているが、これが三千になったら今の規模では収まらない。倍どころか三倍の広さになっても不思議ではないだろう。
「あと、食料だな。町の外に畑を作るとなると水が必要になる。川はあちらこちらにあるが千二千と増えていげば森を切り開くことになり、水不足が発生する。天候が崩れたら食料危機だ。火事にならない貯蔵庫も必要だろうな」
それほど知識がオレでも思いつくことはいくつもあり、それを解決する困難さにため息が漏れてしまう。
ルゼなどもう頭から煙が出ているよ。ちょっと、いやかなり詰め込みすぎたな。
「すまんすまん。そう次から次に言われても理解できなかったな」
「……町を造る大変さだけは理解できました……」
「だが、他から侵略されないためには群れなきゃならない。発展しなければならない。獣のオレが言うのもなんだが、いずれ人の時代がやってきて、獣は少しずつ駆逐されていくだろう」
もうそれは避けられない生命の宿命だ。いつまでも獣の時代ではいられない。知恵ある種がこの星を支配していくんだ。
「……レオガルド様……」
「気に病むことはない。必ずしも人間の時代になるとは限らないし、共存できる方法があるかもしれない。オレらが死んだあとはその時代を生きる者が決めていくことなんだからな」
オレも三十年以上生きている。まだまだ衰えは感じないが、それでも獣の寿命は長くない。精々、五十年も生きれたら万々歳だろう。ギギより少しだけ長く生きれたら儲けものだ。
……ギギを一人にして死んでられないからな……。
「オレの言葉に捕らわれる必要はない。この町で暮らしているのはお前たちなんだ。暮らしやすいよう皆で考えて、ルゼが決断していけばいい。揉めるようならオレの名前を使え。ただ、オレの意を借るクズにはなるな。どうしようもないときに使うんだ。牙や爪は最後に使うものだ」
人間とは違った意味でルゼを教育する。
「……自信が消え去りそうです……」
「そう思い込むな。あれもこれも上手くいくことなんてない。失敗するほうがほとんどだなんだからな」
オレの背中に乗せてミナレアのヤツに権威づけしたいが、さすがに謎触手で持ち上げられる重さではない。なので、謎触手でルゼの頭を撫でてやった。
「辛くなったら止めたらいい。男を見つけて子を産むのもいい。お前が選んだことならオレは認めるよ」
ルゼの代わりになる者がいないわけじゃない。やりたい者がいないわけじゃない。オレが認めてやれば喜んでやるだろうよ。
「すみません。泣き言を言ってしまいました」
「他には言えないことがあるならオレが聞いてやる。溜め込むな」
宥めすかしてルゼの心を保ってやる。
「……はい……」
「そうだ。ルゼも一度、第二次防衛線まで視察にいってみるか。最前線がどうなってるか知っておく必要もあるからな」
それは建前。今のルゼには気分転換が必要である。
「ですが……」
「お前が抜けたくらいでミナレアが回らないようでは町運営としては正しくない。オレがいるうちにルゼの補佐する者を選んでおこう」
補佐する者はマイノカから連れてきてはいるが、あくまでもルゼの生活を支える者。政治を補佐するヤツはいないのだ。
さっそく長老たちを集め、ルゼの政治的補佐をできる者を選んでもらった。
と言っても政治なんてしたこともないヤツら。選べと言っても困るだろうから騎士に成れなかった者で職人ではないヤツを集めてもらった。もちろん、男女を問わずだ。
その中から身嗜みができているヤツ、言葉遣いがマシなヤツ、単純な足し算や引き算ができるヤツを選び出し、一人一人ヒアリングして十人を選出した。
「お前らを公爵府の一員とする。まずは、十人で協力し合ってミナレアの人口、住む者の名前を書き集めろ。もちろん、人間、ゴゴールもだ。板などは職人や町の者に協力してもらえ」
そう言ってすぐにできるなら苦労はしない。これは十人からルゼの政治的補佐を見つけるための選出。政治をするための訓練。長老たちに説明して十人の補佐をお願いした。
「失敗してもいい。とにかく経験させろ」
そう長老たちに言いつける。
「将来、ルゼの婿になるかもしれない。よく鍛えてやってくれ」
騎士から選びたかったが、あちらはモテ組。全員が妻持ち。諦めていたが、男が七人もいたら相性のいいヤツはいるだろう。
そして、ミナレアの男が将来の代表ともなれば長老たちも張り切るはずだ。オレの力でねじ伏せてはいてもミナレアは自分たちのものだって思いがあるだろうからな。
「レオガルド様のご配慮、ありがとうございます」
その言葉には返事はしない。そこは察しろ、だ。
あとのことは長老たちに任せ、オレらは第二次防衛線へと出発した。
ダメ女神からゴブリンを駆除しろと命令されて異世界に転移させられたアラサーなオレ、がんばって生きていく! もよろしく。
 




