12 銀の弾
楽しいときの時間の流れは早いものである。レオノール村にきてもう五年が過ぎた。
ギギも十七歳(正解な誕生日はわからず、夏に産まれたとは聞いてるそうだ)となり、もう出会ったときの幼さはなくなっている。人の成長とは早いものである。
村も日々発展しており、家屋も増え、畑も広がっている。このままなにもなく発展すればよいのだが、そうならないのが世の常。問題は突然やってくるものだ。
また開拓の町──コルモアの町から兵士がレオノール村へ向かっていると報告された。
三十人規模で、当たり前だが武装しているそうだ。ハァ~。
「セオル。あちら次第では戦うことにもなるし、殺すことにもなる。昔の仲間と戦いたくないなら村を去っていいぞ」
セオルたちが加わり、村の発展も加速した。船員の中には職人の息子が何人かいて暮らしも楽になった。
ここで抜けられるのは痛いが、仲間と殺し合いを強要するほど畜生ではない。嫌なら去ることを認めるよ。
「いや、我らはここに残る。ここでの暮らしは元いたところより豊かだ。特に船員だった者らは出ていけと言っても断るだろう。帰ったら酷い暮らしに逆戻りだからな」
確かにそんなことを船員だった野郎どもから聞いたことはある。ここでは食うのに困らず奴隷のようにこき使われることもない。なにより、旨い酒が飲める。贅沢を言うなら嫁が欲しいと、な。
まあ、嫁問題は考えなくちゃならんな。娼婦だった女たちの取り合いでケンカが多いからな。
逆に、ミレナーの民は順調に夫婦になる者が増えている。結婚式などはやってないが、ベビーラッシュは起きてるよ。
……他種族でも愛し合う姿を見てたら自分らもしたくなるわな……。
「ゼル。男たちを二つに分けて人間たちを囲め。あと、別の隊が迂回して村を目指そうとしてるかもしれん。殺さず捕まえろ。できるな?」
「もちろん」
ニヤリと笑うゼル。この日がくることは想像できていたし、対策も考えてある。三十人くらいなら負けはしない。あちらが銃を持っていようとな。
「セオルたちは村を守れ」
「我らを信じてくれるのか?」
「人間は裏切ったお前たちを許してくれるのか?」
そんな寛容な持ち主だったら是非とも仲良くしたいんだがな。
「……よくて縛り首だろうな……」
悪くて張り裂けの刑か? まあ、この時代の人間がどんなものかわかる回答だな。
「自分の居場所は自分で守る。昔に戻りたくないのなら今を守れ。こちらが優位なら権限も強くなる。勝者がよりよい暮らしができるんだからな」
セオルだけではなく人間たちに聞こえるように言った。
強すぎる欲は毒になるが、功名心や自分の立場を築くための欲は力となる。ここで立場を築いておけばこれから優位に立ち回れる。人間をその気にさせるなら欲を煽るほうがいいだろう。
「レオガルド様が人間だったら英雄になっているな」
「獣に地位も名誉もいらんよ。それはお前らにくれてやる。名と武を挙げろ。ギギのためになるならオレが認めてやる」
いや、まだ戦いになるとは決まってないが、その覚悟は持っていてくれ。いずれにしても人間との戦いは避けられないだろうからな。
「ギギ。いくぞ」
「はい、レオガルド様」
ギギを背に乗せて向かってくる一団へと走った。
オレの脚で一時間くらい。人間の一団を見張っていたミレナーの民と合流した。
「一団の数は?」
前に調査隊がきたとき、少し離れて追跡させた。
そのときに調査隊は計測し、木に印をつけていたそうだ。
人間のやることなんて世界が変わろうと本質は同じ。友好的な顔して背中でナイフを握っている。ちゃんと道を調べているとは思っていたよ。
なら、こちらはそれを利用させてもらうまで。道を調べ、周辺を把握し、見張りを放ち、迎え撃つ準備をする。完璧とまではいかないまでもこうしていち早く察知できるまでにはなっている。
「数は三十六人。少し離れて荷物を運ぶ者が五十八人。前にきた者たちが案内してます。聞き及ぶ話では何十人と脱落しているようです。今も何人かが怪我を負っているようです」
まあ、レオノール村からコルモアの町までオレの脚でも半日はかかる。人の脚なら二十日近くかかるだろうよ。なぜなら水場を見つけながら移動するからだ。
合流してから一日、人間たちを観察する。
なんつーか、今にも死にそうな歩みである。レオノール村にきた男たちは疲れてはいるが、兵士たちほどではない。辺りを警戒しながら進んでいた。
後方の荷物持ち隊も同様。今襲ったらミレナーの民だけでも数分で皆殺しできそうだ。
「レオガルド様、どうします?」
「皆殺しするのは簡単だが、人間たちは一度や二度の失敗で諦めたりはしない。それはギギにもわかるだろう」
開拓団も百年前からこの大陸に送り込んでいるらしい。ここで皆殺しにしてもまたやってくるだろう。もうレオノール村があることは知られてるんだからな。
「よし。接触してみるか。お前たちは囲むように隠れていろ。オレが合図するまでは出るなよ」
下手に出てくるとオレの雷に打たれるからな。
しばらく進むと迎え撃つ用に拓いた場所があるので、そこで待つことにする。
調査にきた男がオレに気づき、一団を停止させた。
「なにしにきた?」
「た、戦う意志はこちらにありません!」
「軍隊を連れてきてその言い分が通るとでも思っているのか? またくることを許したが、侵略することは許してはいないぞ」
「軍隊を連れてきたのは護衛です。あなたと戦う意志はありません」
「なら、なぜ銃口をこちらに向ける? それで戦う意志はない? 誰が信じると言うのだ?」
調査にきた男は、銃口を下げるように叫ぶが、聞き入れる者はいない。まあ、それで言うことを聞いたら軍隊としては成り立ってないな。
「獣風情が人間に命令するかっ!」
と、なんか驢馬っぽい生き物に跨がった小太りの男が出てきて叫んだ。
「通訳にセオルを連れてくるんだったかな?」
まあ、あのバカに通じる言葉を吐けるとは思えんが、どんなヤツかは聞けたかもしれんな。
「ゴッズ将軍! 交渉は我らに任せるはずでしょう! お下がりください!」
「黙れ! 獣と交渉など恥でしかないわ!」
なかなかどうして絵に描いたような能無しである。逆に感心できるわ。
「銃、構え!」
おっ、さすが軍隊。今にも死にそうだったのに、銃を構えた。
「死にたい者だけかかってこい」
調査にきた男たちは一瞬の躊躇いもなく逃げ出した。いい判断だ。
「──撃てっ!」
十の銃口から”銀色の弾„が撃ち出された。




