119 母と娘のよう
マイノカとコルモアを往復すること十回。マイノカで処理し切れない数を運び終えた。
「……凄まじいほどのコミーが出たのですな……」
三日かけて運んだにも関わらず、その量に対処しきれてないセオルが驚愕していた。
「ああ。SSSランクモンスターが出てくれたほうが気持ち的に楽だよ」
死闘をするより地道な作業のほうが酷だと、獣に生まれ変わって知るとは夢にも思わなかったよ。
「処理し切れないならコルベトラに回すか?」
あちらにも職人はいたはずだ。
「そうですな。あちらに樽職人がいますし、地下倉庫が多いですから貯蔵もできるでしょうしな」
簡易的に作った住居は今は地下貯蔵庫となってるんだ。発展著しいな。
「では、持ってってやるか」
この雪では人間の手での輸送は大変だろうしな。
「そう言えば、女たちはどうした?」
「何人かは結婚を拒否しましたが、概ね結婚しました」
「そうか。余った者は諦めてもらうしかないな」
そこは生存競争に負けたと思って、自分の人生を豊かにしてもらおう。なあ、同志たちよ。
皮を剥いだものと血抜きしたものを橇に積んでもらい、コルベトラへと出発した。
こちらも道がよくなり、海風でそれほど積もってないので三時間もしないで到着できた。これなら人間でも二日でいけるだろうな。
「お久しぶりです、レオガルド様」
「ああ、元気そうでなによりだ。ちゃんと食べれているか?」
ミドアの嫁だろう女と一緒に迎えてくれた。
「はい。今年は漁にも出れるようになりましたから」
ほぉう。漁か。小舟でも作ったか?
「マイノカも大量すぎて困っているよ。毎日毎日コミーばかりだ」
「コミーですか。こちらは冬になっても熊が出て参ってます」
「熊だと!?」
「は、はい。被害は出てないのですが、ゴミを漁りにきています」
熊公め、こっちに逃げてたのか。なんとも小癪なヤツらだよ。
「それはいいことを聞いた。しばらくコルベトラで熊狩りをするか」
冬眠できないだろうから味は落ちてるかもしれないが、コミーを食うよりはマシだ。
「コミーを皆にわけてやれ。あと、皮は職人に加工してもらえ」
「それは助かります。服がなくて困ってたので」
「足りなければコルモアに分けてもらえ。あちらにも大量に運んだからな」
「春はミバールも回してもらえると助かります。春には子供が産まれそうなので」
よく見ればミドアの嫁の腹が少し膨らんでいた。
「そうか。それはめでたいな。無理せず元気な子を産めよ」
謎触手で嫁の腹を優しく撫でた。
「あ、ありがとうございます!」
ああと頷いて熊を探しに出かけた。
熊はすぐに発見。オレの好物たる赤熊だ。
「少し、痩せてるな」
冬眠できるほど食い溜めできなかったのだろう。いつもの半分くらいしかなかった。
オレに気がついた赤熊が逃げ出すも、十メートルも逃げられずにオレの爪の餌食となった。
「いい血の香りだ」
痩せ細っていても赤熊の血はオレの食欲を誘うぜ。
「うーん。まだ若い赤熊だな」
二年か三年生きた味だ。でも、コミーよりは美味い。充分満足できるぜ。
一匹ペロリと平らげて次なる獲物を探しに出る。
コルベトラの周りを探ると、冬眠している熊の臭いが結構した。
「よくコルベトラが襲われなかったな」
最低でも三十匹は冬眠している感じだ。飢えていたら見境なくなるんだがな。オレの臭いに相当怯えているのか?
すべてを狩り尽くしたい衝動に襲われるが、熊には増えてもらいたい。コルベトラに近いのを掘り出していただいた。
四匹で抑えておき、コルベトラに戻った。
「かなりの数が冬眠していた。オレの毛を境にぶら下げておけ」
目覚めてから赤熊がこないとも限らない。オレの毛を残しておけば飢えていても襲ってはこないだろう。
コルベトラにはまだ巫女がいないので、野郎どもにレーキで梳いてもらった。
「レオガルド様の毛、少しもらってもよろしいですか? 産まれてくる子供の産着にしたいので」
「それ、ゼルム族の風習だろう?」
寝床には毛一本落ちてないよ。
「まあ、わたしも子供にレオガルド様の加護を与えたいもので」
加護と言うより獣避けにはなるんだから好きにしろ、だ。
「次はチェルシーやミディアを連れてくる」
熊を食いにくるついでにマイノカからコルベトラへと続く道を作るとしよう。
橇はコルベトラに置いていき、マイノカへと戻った。
「レオ様、お帰りなさい」
夜になったので、まっすぐ家に帰ると、レブだけがいた。珍しいこと。
「レブだけか?」
「うん。農業村の近くに熊が冬眠してたみたいで、チェルシーを単独でいかせたの。寒くて付き合ってられないし」
レブも寒さには強いが、一日中外にいるのは厳しい。今の時期は氷点下までいくときあるからな。
「そうか。コルベトラにも冬眠する熊がいたから誘おうとしてたんだが残念だ」
まあ、あちらにも熊がいたってんなら来年の熊は心配なさそうだ。
「なら、レブがいくか? あまりコルベトラにはいってないだろうしな」
ここ最近はブランボルばかりを任せていたしな、存在は知っていても顔は忘れているだろうよ。
「ギギねえ様は?」
「ギギは忙しいからいけないだろうな」
大巫女の立場であり、マイノカの纏め役みたいな立場でもある。そうそう離れるわけにはいかないのだ。
「じゃあ、レオ様を一人占めだね」
「あはは。そうだな」
たまにはレブを乗せるのもいいだろう。でも、ギギには報告しておこう。
「あまりレブを甘やかさないでくださいね。勉強もあるんですから」
すっとレブを見たらサッと視線を逸らされた。
「ハァ~。なら、オレが実直で教えるよ」
ギギに次ぐ存在がおバカでは困るからな。
「レブ。しっかりレオガルド様に教えてもらうのよ」
「はぁーい」
「返事は短くはい、でしょう!」
「はい!」
なんだか母と娘のようだ。ふふ。
セントールの悩み22巻、おもしろかった。