118 ガンスミス
コミーを狩場へと追い込み、マイノカの連中総出で狩り尽く──せるわけもなく、多くのコミーを逃がしてしまった。
「ったく。本当に厄介な獣だ」
オレらだけでも千匹は狩り、マイノカの連中総出で五百匹は狩った。なのに、数百匹を逃がしてしまうとか、本当、意味わからん数だわ。
「この大陸、明らかにおかしいだろう」
これだけコミーが増えても樹々は枯れず、しばらくすると獣は復活する。誰か裏で調整してんのかと勘繰りたくなるぜ。
「レブ、チェルシー、ミディア、逃げたのを狩るぞ!」
マイノカの近くで狩るなら集めるのも簡単だからな。
「とにかく狩れ! 状態はどうでもいいから!」
今は冬。みじん切りにしても腐らない。雪室に入れておけば夏の初めまで貯蔵できるはずだ。
ミディアの呪霊は水。雪を氷に変えられることもできた。穴掘り名犬なら氷で壁を補強できるから深く掘れるはずだ。
「爆風!」
コミーの中心で風を爆発させてコミーを吹き飛ばしてやる。
樹々に激突して気絶するのやら首が折れるのやら数十匹を狩る。
次々とコミーを狩っていくが、ちょこまかと動きやがるクソ害獣。多くの数を逃がしてしまった……。
「いっぱい逃がした!」
「わたしたちも……」
ミディアとレブたちもか。バリュードより厄介な存在だぜ。
「あとは地道に狩るとしよう」
地道に勝る近道なし。根気強く狩っていくとしよう。
「しかし、凄い数になったな」
「食べなくちゃダメなのかな?」
「わたしは食わないから」
レブのため息混じりの独白にミディアが答えた。
「コルモアに運ぶ」
最初からコルモアに運ぶ考えはしていた。人間なら有効利用してくれるだろう。
「ミディアとライザーは農業村に運べ。ベイガー族も器用だし、利用方法を考えるだろう」
グローブのような手をしてて人間並みに器用なのだ、ベイガー族って。不思議だよな。
「レブたちはブランボルだ。あちらは移住者が多いから喜ばれるだろうよ」
チェルシーとミディアに合わせた橇は作ってある。一回で三十匹くらいは運べるだろうよ。
「わかった」
オレらがバラければ狩る獲物も被らない。今年の冬はバラけないと食っていけないだろうよ。
守人たちに荷車を用意させ、一番遠いブランボルには生きたのを詰め込み、一番近い農業村にはバラバラになったもの。オレは傷のないものをコルモアへと運んだ。
今回はピストン輸送なので、オレだけで向かう。
道もよくなり、オレの脚なら半日で到着。山と積まれたコミーに驚く兵士たちに下ろさせた。
「これはまた大量ですな」
話を聞いただろうセオルたちがやってきた。
「ああ。バリュードが片付いてないのにコミー大発生だ。お陰で熊はいなくなるし、毎日味気ないコミーばかり食わされてるよ。しかも、気配も臭いも消す親玉までいる。オレが言うのもなんだが、暮らすのに厳しい大陸だよ」
SSSランクのオレに泣き言を出させるとか、この大陸、厳しすぎるわ。
「こちらはどうだ? コミーは出ているか?」
あいつらは弱いクセに分布域が広すぎんだよ。
「こちらは出ていません。まあ、波が高くて漁ができてませんが」
まあ、ただでさえ冬の海は荒れやすいしな。それは仕方がないだろう。
「ミドットリー島はどうだ? 食料は足りてるか?」
「波が高いときはコルベトラに向かいますから問題はないようです。開拓船もきてないようですし」
海流の関係か、冬の間はコルベトラのほうが停泊しやすいらしい。
「こられるのも困るが、鉄が供給されないのは痛いな」
山師やミドロア率いる陸軍に探させてはいるが、砂鉄を集めるのが精一杯なのが現状だ。
「そうですな。こちらから買いにいくとしても海軍としての体が整わなければ押し寄せれて侵略されるだけですからな」
稼働できる戦艦は四隻になったそうだが、何十隻と開拓船団を組める敵と戦うには少なすぎる。買いにいくのはまだ先の先だろうよ。
「コミーはまだ何百とある。皮を剥いで服にするといい」
「それは助かります。コミーの皮はなにかと役に立ちますからな」
さすが人間。利用法はとっくにあるようだ。
「そうだ。レイギヌスの武器はどうなっている?」
対フガク用に頼んでいたレイギヌスの槍だ。
「あまり上手くいってません。レオガルド様が咥えるものになるほどの呪霊がなかなか定着しないようです」
「そうか。やはり難しいか」
どうも弾丸くらいならそう難しくないらしいが、オレサイズになると段違いに難しくなるそうだ。
「そこで考えたのですが、レオガルド様の触手で持てるナイフではどうでしょうか?」
ナイフ?
「試作品をお持ちします」
と、鍛冶師と思われる男がナイフ(人だと長剣だがな)を二振り持ってきた。
「フガクに対抗できるかはわかりませんが、弾丸でもAランクモンスターには効果があるのですが、ナイフを刺して、レオガルド様の雷をナイフに落とせば多少なりとも効果があるのではないでしょうか?」
なるほど。考えたものだな。
まだ、ただのナイフを謎触手でつかみ、具合を確かめる。
ちなみにオレの謎触手の先は柔らかくて、筋肉を引き締めたらナイフの柄を握れたりするのですよ。
「ナイフの柄と柄を合体させれるようにしてくれ。咥えれるようにな」
「合体ですか。わかりました。考えてみます。サイズや重さはどうでしょう?」
「ちょうどいいな。いや、ぴったりだ。お前、凄いな。名前は?」
「サマイです」
「サマイか。よし。お前にガンスミスの姓を与える。今からサマイ・ガンスミスと名乗るといい」
まあ、ガンスミスはどうかと思うが、それ以外思いつかなかったので許してくださいませ。
「あと、オレの体に合わせた鞘とベルトも作ってくれ。さすがに持っての移動は邪魔だからな」
謎触手は常時開けておきたいからな。
「わ、わかりました! ガンスミスの名に恥じぬよいなものを作らせていただきます」
「ああ、期待している」
ナイフを返し、ウキウキしながらマイノカへと戻った。
宣伝。『魔女のグルメ旅』もヨロシクです。