115 害獣再び
雪が積もる日にマイノカへと帰ってきた。
「お帰りなさいませ、レオガルド様!」
マイノカの者がすべて集まったかのような人数で迎えられた。
「ああ、ただいま。皆、元気だったか?」
そうマイノカの者たちに声をかける。
あまりマイノカにはいれてないが、ここはオレやギギの故郷でもあり、ここに暮らす者はオレらの家族でもある。少なくない思い出がある地があるのだから、これからも思い出を作るために声をかけていくのだ。
「レオガルド様! 遊ぼう!」
子供らがわらわらと寄ってきた。
「ああ。落ち着いたらな」
謎触手で子供らの頭を撫でてやり、小さい子を背に乗せてやった。
ギギも人間の幼馴染みの子らを抱いてやっている。
そんな姿を見ると胸が痛くなる。ギギも二十六歳。子供の一人いても不思議じゃない年齢だ。オレと一緒に……いや、それはギギに失礼だな。オレといってくれるのはギギの意志だ。その意志を蔑ろにするほうがギギが失礼だ。
ゼルへと帰還の挨拶を済ませ、家へと帰る。
「ヤトア。ちゃんと嫁と子を相手してやるんだぞ」
守人は結婚してはならぬと決めたが、ヤトアは霊装術を後世に繋ぐ役目があり、呪霊を宿す子を増やす役目がある。と言う理由で特別に家庭を持つことを許してあるのだ。
「わかっている。この冬は一緒にいるよ」
ちなみにヤトアの家はオレらの家の近くにあり、留守を守ってもらっているのだ。
「師匠。名前、頼むぞ」
「ああ、わかっている。明日にでも見にいくよ」
今日は巫女たちと過ごさないといけないからな。
家──と言うか、なんかさらに建物が豪華になってないか? ちょっとした体育館くらいになってるぞ。
「お帰りなさいませ」
巫女一同が出迎えてくれた。
「ああ、ただいま。またデカくしたな」
「はい。チェルシー様、ミディア様が入れるよう、職人に造らせました」
確かにデカい三匹が入るには狭かったな。つーか、よくこれだけのものを造る技術があったものだ。マルジェムが設計したのかな?
「そうか。職人たちに礼を言わんとな」
礼を言ってやれるしかないが、将来、オレの家を建てた職人として名を残すのだからそれで許してもらおう。
その日は巫女たちと過ごし、チェルシーと並んでレーキで毛を梳いてもらった。
「レブ。ミディアの様子を見てきてくれるか?」
あちらも放っておけないからな。何気にお姉さん気質があるレブならミディアをいいように宥めてくれるだろう。
「わかった。ついでにコルモアにいってくるね。最近、いってないし」
そう言うことまで考えるようになったか。レブも成長したものだ。
「ああ。頼むよ」
レブの頭や顔を謎触手で撫でてやった。
「ガウゥ~」
「はいはい。お前も頼むな」
頭突きしてくるチェルシーも撫でてやった。
「じゃあ、いってきまぁ~す!」
農業村へと出かけるレブとチェルシーを全員で見送った。
見送ったらオレは狩りに出かける。
「熊、見なくなったな」
マイノカの周辺を三十分ほど探るが、ちっとも熊の臭いが嗅ぎ取れない。狩りすぎたか?
狩り尽くさないよう注意してたが、冬に何十匹も狩ってたら逃げ出しもするか。熊もバカじゃないしな。
さらに一時間かけてやっと熊を見つけられた。
「まあ、自然に生きてれば一日かけての狩りになるんだし、二時間もしないでエサにありつけるんだからマシと思うしかないな」
あまり大きくもない熊を食しながら自分を納得さそた。
「ん?」
風に乗って獣の臭いが流れてきた。
「……これは、コミーか……?」
害獣とされる鹿の臭いだ。
「もしかして、こいつが出たから熊が減ったのか?」
コミーは他の草食獣の分まで食ってしまう。そのせいで熊のエサもなくなったのか?
「雑食な熊も減らすとか、本当に害獣だな、コミーは」
熊を平らげてから血の臭いを消すために雪を被せ、体についた血は樹や雪に擦りつけて落とした。
「臭いからしてあっちか」
風上にならないよう走り、コミーの群れを発見。広範囲放電でいっきに行動不能にしてやった。
「この冬はコミー狩りに励むとするか」
ピクピクしているコミーを謎触手でつかみ、口へと放り込む。
「鹿はいまいちなんだよな~」
血も肉も薄くて、一口サイズ。オヤツにはちょうどいいが、食事となると物足りないないのだ。
二十匹ほど食って腹八分目くらいになった。
「土産に何匹か持っていくか」
マイノカには人間もゴゴールもいる。肉はいくらあっても困らないだろう。
放電から逃れたコミーの足跡を追い、新たな群れを発見した。
「相当いるな、これ」
群れは三十匹くらいいた。この分では千匹以上いるかもしれんな。
風下から襲いかかり、放電で一網打尽。謎触手で一ヶ所に集め、首を切り落として血抜きをしていく。
「謎触手があって本当によかったぜ」
牙と爪だけではこんなことできない。謎触手がある獣でよかったぜ。
「そろそろ帰るか」
まだ血抜きが終わってないが、まだ生きている。マイノカでやらせるか。
謎触手で二匹ずつ持ち、口で三匹噛んでマイノカへと戻った。
「コミーが出たか」
ゼルもやってきてコミーを見て嘆いていた。
「秋にはわからなかったのか?」
「コミーは町の近くには現れない。見つけたときは粗方食われているのだ」
まさに害獣だな。
「まだいたのか?」
「いたな。軽く千はいそうな数だった」
「そうか。狩りに出るしかないな」
銃士隊はまだミナレアにいるが、狩人はまだいる。今なら三十キロ内なら駆除は可能だろう。
「今年は熊がいないからオレも狩るよ」
あまり狩られるとオレの食い扶持が減る。ほどほどにしてもらおう。
「肉を分けてやってくれ」
血抜きしたコミーを取りに戻った。