表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/225

113 数は力

 神殿に戻ると、ヤトアが守人ガーディたちを鍛えていた。


 守人ガーディはゼルム族もいれはゴゴール族もいるし、人間も少ないが三人はいる。いないのはベイガー族くらいか。


 ベイガー族は力は強いが、あまり好戦的な種族ではないためか、農業村にほとんどが集まっているのだ。


「ギギ。こいつを捌いてくれ」


 巫女たちが神殿の外にいて、煉瓦の釜戸でなにかを煮ていた。


「ミーノですか。綺麗な毛ですね」


「あと何匹か運んでくる。手が足りないときは守人ガーディにもやらせろ。ヤトア。手頃のがいたから狩りにいくぞ」


 戻ってくるときにヤトアでも相手できそうなのがいたのだ。


「モンスターか?」


「いや、蟲だ。甲殻系のな。霊装術の訓練にちょうどいいはずだ」


 いたのは軽トラくらいの団子虫だ。動きは鈍いがミーノくらいでは砕くことはできないだらうよ。


「わかった。守人ガーディを何人か連れていく」


 と言うので、ゼルム族の守人ガーディを二人を連れて団子虫がいたところへと向かった。


 霊装術を纏ったヤトアと下半身馬のゼルム族なので三十分もしないで到着。雷で痺れさせたはずの団子虫が逃げようとしていた。


「蟲は生命力が高いな」


 熊なら死んでもおかしくない威力だったんだかな。


「綺麗に斬ってみろ」


「綺麗?」


「そうだ。力ではなく技で斬れ。霊力を硬く、鋭く、速く、だ」


 まあ、元の世界の受け売りだが、剣の才能があり霊装術を身につけているヤトアなら体感で理解していくだろう。


「……わかった。斬ってみせようじゃないか……」


「ああ。夕方までがんばれ」


 その間にオレはミーノを運ぶことに専念する。


 四往復して夕方になり、ヤトアたちのところにくると、団子虫は微塵切りになっていた。


「あまり綺麗には斬れてないよいだな」


 斬れることは予想していたが、やはり綺麗にとはいかんかようだ。


「…………」


 霊力を使い果たしたのか、大量の汗を流しながら息を切らしていた。


 霊装術を纏いながら半日は全力で走れるようになったが、斬ることには耐えられなかったようだ。


「お前たち。ヤトアを運んでやれ」


「わかりました」


 ヤトアを運ばせ、斬り刻まれた甲殻を手頃な枝にかけておく。


 甲殻についた肉が落ちて甲殻だけが残る。加工しやすくなるだろうよ。


 ヤトアの斬撃に耐えられはしなかったが、強度的には黒曜石よりはある。なら、加工すれば防具にできるはずだ。


 まだ鉄は貴重であり、農具や銃弾に使いたい。その代用品として蟲や獣の素材を使って防具や武器を作っていく技術を高めていこう。


 新たな団子虫を見つけ出し、強めの雷を放って行動を不能にしてやる。


「ここを訓練場所にするか」


 近くに川もあったし、ブランボルからそこそこ離れている。騒いでも問題なかろうよ。


 ブランボルに帰り、捌いたミーノの肉を町の者らに振る舞いながら長老らから話を聞いた。


「そうか。村が一つ滅んだか」


 大森林では村はずれ一つが滅びるのは珍しいことではない。だが、ゴゴール族がレオノール国の民になってから滅びたとなると問題だ。ゼルの統治が問われるし、守護聖獣しての立場がなくなると言うものだ。


「外れの村をもっと近くに移動させることは可能か?」


「外れの者らははぐれに近い者らですからな。近くにくるかどうか……」


 その辺の事情はわからんが、長老たちの話から難しいことはわかった。


「外れの村はちゃんと食料は獲てられてるか?」


「昔よりは獲てはいると思いますが、やはり外れなのでモンスターや獣は集まってきますからな……」


 確かに、オレの脚でも一時間はかかる。ゴゴールの脚なら半日の距離。この大森林では隔絶した距離だ。モンスターなら十分もあれば村一つ簡単に滅ぼさせられるしな。


「強制的に連れてくるしかないか」


 長老たちが言っても言うことは聞かないだろう。なら、絶対的なオレが命令するしかないだろう。


 そうなるなと、外れにいるヤツが馴染むまでついていてやる必要があるだろう。レブとチェルシーと交代でやるしかないか?


「お前たちも外れの者を受け入れるよう動けよ。でないと、ゴゴール族は増えんぞ。ミナレアもバリュードの大群にねらわれて、纏まろうとしている。纏まれば治めやすくなるし、子も増える。お前らが死ぬ頃には倍に増えているだろう。そのとき、纏まりがないゴゴールは半分に減っているかもな」


 オレが守護するとは言え、なにもしないヤツを守ってやるほど優しくはない。自らを戦う者を守る、だ。


「言い聞かせます」


「ああ、滅びたくないのならそうしろ。数が揃えばやれることも増える。田畑を耕し、家畜を飼うこともできる。いつまでも獣のような暮らしをしていたらゴゴール族は家畜にされるぞ」


 もう昔のままではいられない。ここで変わらなければ食われるまで。ゴゴール族に未来はないってことだ。


「いきなり変われとは言わん。少しずつ変わっていけ。そのために王が立ち、オレが守っているんだからな」


 レオノール国を維持するにはゴゴール族の力も必要だ。他の大陸から人間たちが大軍で攻めてくる前にレオノール国は纏まらなければならない。そうでなくてもモンスターがいるのだ、数を揃えるしか生き残る術はなし、である。


「数は力と知れ、だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ