110 美味しいは正義
また秋がやってきた。
今年もゴノの実は豊かになっており、収穫に大忙し。出稼ぎにきたゴゴール族も混ざり、ミナレアは大賑わいである。
オレはもう収穫に参加しないが、獣が寄ってこないようにゴノ畑周辺をうろつき、ついでに巫女たちと守人を連れて秋の実りを収穫することにした。
旧ミナレアの民がここに住み始めたのもよくわかるくらい、周辺には食えるものが実っている。
アケビのようなものや野イチゴのようなもの、ワラビか? ってなもの。ウドだっけ? ってなものがいろいろ生っていた。
オレもそれなりに大きいものは謎触手で収穫するが、小さいのはギギたちに任せる。
実りすぎて各自背負う籠がいっぱいとなり、昼になる前に町へと戻ることにした。
収穫したものは町の者へと分け与える。
まだ貨幣もなく経済なんて言葉も知りようもない時代。物々交換どころか群れの理論で、下の者に分け与える原始時代の様相だ。とても国と名乗るレベルには達していない。
これもどうにかしたいものだが、経済が一日にして生まれるなんてことはない。物が増えて、欲しい者が増え、持つ者が増え、物の価値を知り、あれやこれやと段階を踏まないとならない。
文系だったオレには経済を創るなど無理。無理ゲーだ。なるようになるしか道はなし。今はレオノール国の民を、ギギを豊かにすることだけを考えよう。
「午後は肉を狩ってくるか」
ゼルム族は完全草食ではない。多少なりと食いもする。まあ、脂身の少ない鳥とかだがな。あと、卵も食う。
昔は肉も食っていたそうだが、ここに住み着くようになってからは肉を食うことは少なくなり、やがてたまにしか食わなくなったそうだ。
まあ、ゼルム族全体的に肉は食わないものだが、ミクニールのヤツらはそれなりに肉を食うヤツらだった。
それに、ミナレアには人間もゴゴールもいる。植物だけでは満足はしないのだ。
レブとチェルシーとともに、防衛線とは反対の森へと向かった。
こちら側にはゴゴールがいる(と言っても五から七日距離だが)ので、そう凶悪なモンスターはいないが、草食系モンスターはいたりする。
オレらの縄張りとして、凶悪なモンスターが入ってきたら即座に狩り、その日食べる獲物しか狩らないので、草食系モンスターには暮らしやすい環境となっている。
その証拠に、もうちょっとで準モンスターになりそうなミバリオ(トリケラトプス)がミナレアの近くまで現れるようになった。
二トントラックサイズのミバリオは、群れで行動する草食獣で、柔らかい草を主に食っている。
肉の味に雑味はないのだが、血がなんと言うか薄味で、いまいちオレの好みではない。だが、人間やゴゴールには概ね好評となっていたりする。やはりオレは肉食系肉が好きだ。
「中位のを狙うぞ! 仔は狙うな!」
「わかってる! チェルシー、あれを狩るよ!」
「ガウ!」
ここでは仔は狙わない。メスも狙わない。年老いたヤツは獣の糧に残し、中サイズの中からどん臭いのを狙うのだ。
弱肉強食な世界では、草食系モンスターには優しい世界だろう。天敵はオレらだけで仔は殺されず、あぶれた者だけが食われる。一定の数が保たれ強い存在だけが残れるんだからな。
……なんて強者の理論でした……。
二匹を狩り、それぞれの腹を満たした。
「レブは、塩焼きばかりでは飽きないか?」
ゴゴールとは言え、さすがに生食はしない。焼いたり煮たりして食べている。レブも狩った肉に塩をかけて焼いてたべているよ。
「たまにはココをかけたり豆と一緒に煮たりして食べてるよ」
意外と料理してた。いや、背負い籠に必要なものは詰めているから当たり前、か?
「料理ももっと発展させないとな」
食が豊かになってこそ発展だ。スパイスになる植物を探さないといけないだろうな~。
そうは思うが獣なオレの舌では確かめることもできない。植物の知識もなければ加工技術もない。せめて謎触手に五本の指があれば細かい作業ができるのにな……。
「焼いた肉美味しいよ」
「そうだな。肉は熟成させたり部位により味が変わってくるものだ。山羊もエサを厳選させたら他の肉が食べられなくなるほどだ」
もう微かな記憶にしかないが、食べ放題のところで食べた牛ロース。美味かったっけ。きっと獣の舌でも美味しいだろうな~。
「ミバリオも美味しくなるの?」
「そうだな。こいつなら腐る手前に焼くと美味いかもな。そこの笹の葉で包んで二日か三日したら美味くなるかもな」
何度か熟成させて食ったことあるが、まあ、悪くなかった。もっとも、一番美味いのは狩りたてだがな。
「やってみる!」
笹の葉を摘み、肉を小分けにして包み込んだ。
「いくつかに塩を振りかけておくのもいいかもな」
それから待つこと二日後。試食したレブは微妙な顔だった。
「美味くなかったか?」
「ううん。美味しいよ。あと、一日置いたほうがよかったかも」
さらに一日置いたものをたべたら満面の笑みを浮かべた。
……一日置いたくらいでそんな劇的に変わるものか……?
ギギにも食べさせると、ちょっと驚いた顔をしたが、美味しいと笑顔になった。
他の人間やゴゴールにも試食し、なにか目覚めたヤツが現れた。
いろいろな熟成法を考え始め、ゴゴール族のヤツが中心になって開発が開始された。
「やはり、美味いは正義だな」
これからどうなるかわからんが、興味は発展だ。きっと新たな肉食文化が始まるだろうよ。
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