11 収穫祭
「とりあえずお前ら、臭いから体を洗え」
何十日も航海するからか、芳ばしい臭いが発生してる。
獣の鼻にはそれほどキツくはないが、人間やゼルム族には殺人臭みたいだ。芳ばしい臭いに顔をしかめていた。
「ギギ。女は奥の滝で洗え」
娼婦(仮定)に配慮、じゃなく、ギギに公序良俗を教えるためだ。最近、女らしい体になってきたからな。
野郎たちは適当に体や服を洗わせる。石鹸はまだ発明されてないのかな?
「もう夜になる。今日は食事をして休め。明日から働いてもらう」
ゼルム族が何日か前に狩ってきた大角鹿を食わせたのだが、飢えた獣のように食らいついてる。航海の過酷さがよくわかるよ。
「逃げるのは構わんが、夜にオレから離れたらすぐに食われるから覚悟してやれよ」
この大陸の蛇は夜に活動して、静かに獲物を狙う。ほんと、安眠妨害な蛇だよ。
夜はゼルム族を船で寝るよう指示し、人間たちは岩場で寝かせた。大地で眠れる幸せを噛み締めろ。
朝になったらしっかり食わせて船のものを外に出させる。
大砲とかは人手が足りないので、オレが甲板を剥がして咥えて出した。
「ん? 獣の臭い?」
再利用するので慎重に剥がしていたら、船の中から獣の臭いを嗅ぎ取った。
「ギギ。中を調べてくれ」
この臭い中にギギを入れるのは抵抗があったが、この臭い中で海を渡ってきたと笑われて中に入っていった。
「豚と山羊、鶏がいました。食べずにいたなんて順調な航海だったんですね」
飼うために運んでくるが、途中、潮の流れや天候で航海が長くなると食べてしまうそうだ。
「それは運がいい」
黒い豚は四頭。茶色山羊は八頭。鶏は十数羽いた。運がいいと言うより奇跡に近いな。
豚は死なせたくないのでゼルム族四人に護衛させて村へと運ばせた。
ちなみにオレの抜け毛を束にして持たせると、モンスターや肉食獣は近寄ってはこない。まあ、絶対ではないが、村までなら問題はないさ。
船から降ろす作業は数日かかってしまったが、いろんなものを手に入れられた。
「お前たち、橇を作れ」
村の連中から橇があることは聞いた。雪が降る地では使っていると。
解体した船の木材でオレサイズの橇を作らせ、山羊と鶏、鉄製品を載せれるだけ載せて、一旦村へと帰った。女と従順な男を十人ばかり連れてな。
荷物を曳きながらだと村につくのに四日もかかってしまった。ハァ~。疲れた。
「ゼル。人間たちの面倒を頼む。ちゃんと働く者にちゃんと食わせろ。あと、無闇に殺したりはするな」
人間と暮らしてきたからか人間に忌避はないが、余所者には厳しいところはある。船の人間も他種族の下につくのを嫌がって抵抗するかもしれない。
いがみ合いから殺し合いに、なんてこと二十一世紀になってもなくらなかった。ましてやこの時代では他種族と共存なんて考えられる人間なんていやしない。強さで強制しなきゃ無理だろうよ。
「わかった。家はどうする? 聞いた話では三十人くらいいるそうだが、秋まで時間がないぞ」
そうだよな。人が増えたら食う量も増える。秋は収穫して加工するだけで終わるからな~。
「まあ、家は船を分解して作らせる。人間に煉瓦を作らせておいてくれ」
間に合わなければ土壁にして暖炉で暖をとれたら冬はなんとか越せるだろうよ。
「わかった」
「人間がまたやってきた。今度は兵士が多い。まずこないとは思うが、警戒だけは怠るな。鉄砲は厄介だからな」
ゼルム族には鉄砲がどう言うものか教え、村の者にも伝えるように言ってある。落ち着いたらどんなものか実践させてみないとな。
「ギギ。女たちの面倒を頼むぞ」
荷物運びだからギギは村に残し、女たちの世話をさせることにした。
「はい。お任せください」
ゼルに目で頼むと伝え、また橇を引いて海岸へと向かった。
往復する度に通ったところが道になっていく。
……数年後は街道になったりしてな……。
そんなに速く走れないのでそんなことを考えながら村と海岸を往復する。
秋になる前に荷物や解体した船を村へと運ぶことができた。
「もう二度としたくないな」
船一隻分があれほどとは思わなかった。早くダンプが生み出されて欲しいぜ。
しばらくのんびりしたいが、秋がきてしまった。またゴノを採りにいかなくちゃならん。
「レオガルド様は、橇を曳くのに抵抗はないんですか? 家畜扱いするなとか?」
橇に乗る人間──高級士官だったセオル(貴族の三男坊だってよ)が不思議そうに尋ねてきた。
「お前は荷物を背負うことに抵抗があるのか?」
無理やりだったらそりゃ反抗もするが、これはオレの自由意志でやっている。橇でもなんでも曳くさ。
「レオガルド様は本当に獣なんですか? 神の使いとかではないんですか?」
「オレは獣だよ。あと、神に会ったことはないな」
神様の手違いならせめて説明をしてから転生させてもらいたかったよ。なんも説明なしに転生はしんどいわ。
「オレが何者だろうと関係ない。オレはギギのためにここにいるんだからな」
ギギと一緒にいることがオレの生きる理由。人とか獣とかどうでもいいわ。
ゴノが生る場所に到着し、ゼルム族には収穫をさせ、人間たちにはゴノの若木を掘り起こさせた。
「どうするので?」
「村に移植する。何日もかけて収穫にくるのは大変だからな」
移植が成功するかわからんが、やってみなければわからない。将来を考えたらやるのは早いほうがいい。
若木を八つほど掘り起こし、村に移植した。
まあ、誰も育てたことはないので試行錯誤が続くだろうが、冬になっても枯れることはなかった。
「根づいてくれるといいんだがな」
秋になっても枯れなければまた若木を移植するとしよう。
「レオガルド様! 去年樽に入れたブブルを試飲しましょう」
寝床でぼんやりしていたらギギがやってきた。
一年くらいで熟成はしないが、そろそろ収穫祭的なものをやって生きる喜びを持たせるのもいいだろうとギギに提案したらブブルを開けることになったらしい。
「ああ。わかった」
ギギに連れられ、広場へと向かった。




