104 誤算
モドの漬物からゼルム族が大量に汗をかく種族だと気がついた。
そう気がついて他の種族を観察したらやはりゼルム族の体臭に鼻を曲げていた。ゼルム族の巫女もだ。
オレも獣としては嗅覚は弱いが、それでも種族を判別し、二日くらい残った臭いはわかる。
だが、臭いがキツいと感じたことはなかった。もちろん、くっせー! と感じたことはある。しかし、ゼルム族の臭いをくっせー! と思ったことはなかった。濃いからわかりやすいと思ってたくらいか?
「ギギ。もしかして、ゼルム族の体臭、キツかったりしたか?」
巫女たちを集めて尋ねてみた。
「え、あ、はい。少し……」
その顔は少しではなかった。
「そうか。気づかなくて悪かったな。獣の嗅覚では判別できなかったよ」
「いえ、種族としての臭いですから仕方がありません」
ギギはオレといることで清潔だ。毎日体を洗っている。マイノカには風呂もあったので、より清潔だった。
ギギが清潔にすれば、それは巫女に伝わる。伝われば種族に関係なく清潔にし、ゼルム族の巫女も毎日体を拭いていた、記憶がある。
「これは、清潔にすることを教えないとダメだな」
習慣がないヤツらに習慣させる苦労は想像できるが、このままではいつまでも獣のままだ。いや、獣のオレが言っても説得力はないが。
「どうするんです?」
「まずは道具作りだな」
人間がきたことで道具は増えたたが、文明人として生きるにはまだまだ少ない。特に美容に関する道具など櫛くらいしかない。
なので、巫女たちに繊維の強く、茎の長い草を集めさせる。
茎を叩いて柔らかくし、交互に編ませてスポンジ的なものを作らせた。
「種族の肌に合わせて硬いの柔らかいのを作れ。作ったら自分らの肌で確かめるんだ」
これまでも草を束ねたもので洗ってたらしいが、あくまでも束ねただけのもの。種族に合わせてはいない。だから今回、合わせて作らせるのだ。
その間、ミナレアにいる人間の職人にはブラシを作らせた。
椰子の実みたいなブラシは昔からあるようで、人間の職人に頼んだら数日で結構な量を作ってしまった。
「悪いが、ゼルム族にも作り方を教えてくれ」
人間の職人は忙しいので、ゼルム族の戦いに不向きな男を集めて教えさせた。
二十人くらいの中から器用なヤツには櫛も作らせ、さらに器用なヤツには装飾品を作らせた。
なにかをさせるなら上からだが、清潔にさせるなら女からだろう。
女が清潔になり着飾ればお洒落が生まれる。女が綺麗になれば男も身綺麗になる。まあ、ゼルム族にそれが通じるかわからんが、清潔さを習慣化させるには時間がかかるもの。少しずつ変えていけ、だ。
職人となったゼルム族の男たちを見ながらオレは岩山から砕いた岩を運んでいた。
ミナレアには川がいくつか流れている。
それほど大きい川ではないが、流れはそれなりにあるので、脇道を造り、そこをゼルム族の水浴び場とする。
ミディアの穴掘りも極められ、均等に掘られていた。
そこに運んできた岩を砕いて敷き詰め、足で均し、その上に煉瓦を敷き詰めた。
ゼルム族の煉瓦職人が育ったせいか、煉瓦も毎日のように作られ、窯も三十以上できてたよ。ちなみに、石炭で火をおこしています。
重機役のオレとミディアがいれば一月くらいで完成。川と水浴び場を繋ぎ、水を流す。
「ゴミが流れてくるな」
自然の川なのだから葉や枝が流れてくるのはしょうがないが、元物作りの国の血(記憶か?)がそれを許さなかった。
と言っても獣なオレは指揮するだけ。棒を組ませて網を作らせ、通路に設置させた。
「掃除し易いように四つくらい設置しておくか」
本当は水門とか造りたいが、そこまでの技術はない。もっと技術力が高まったら挑戦させよう。
水の流れは良好。ゴミも小さいのがちらほらと見えるていど。水浴びするには問題ないだろう。
「まずは働いてくれた者らが使え」
これまで水浴び場造りに協力してくれた男たちに使わせた。
男たちも造るときから水浴びをさせていたので、入ることに抵抗はなく、束子やブラシで体を洗った。
季節は暖かくなったとは言え、水に浸かっていたら体は冷えるので、焚き火で暖を取らせた。
「気持ちいいですな!」
「ああ。さっぱりして最高です!」
「なんだか痒みがなくなりました」
どんだけ汚いんだよ。とは思ったが口にはせず、これからも水浴びをして身綺麗にしろと言っておく。無理強いはよくないからな。
それから水浴びをするヤツらが増えていき、暑くなってきたからか、入場制限をかけるくらい混雑してしまった。
「レオガルド様。水浴び場を増やしてください」
ルゼのとこに陳情が上がったのか、水浴び場を増やすことになってしまった。
習慣づけする前に人気爆発となってしまったよ……。
「とんだ誤算だったよ」
まあ、嬉しいほうに誤算だったのだからよしとしよう。
ただ、闇雲に造くると後々問題が出てくる。川から飲み水を汲むので水浴び場の川と飲み水の川を区別して、汚れた水が飲み水の川と合流しないようにしなくちゃならない。
そのことを話し合い、理解させ、納得させてから川を選び、水浴び場を二ヶ所増やすことに決定した。
「レオガルド様。騎士団の基地にも造りたいです」
ミゼルからも陳情されてしまった。
ハァ~。忙しい限りである……。
宣伝。
1.ウェルヴィーア~邪神と戦えと異世界に放り込まれたオレ(♀)の苦労話をしようか
2.わたしはタダの侍女ではありません
二作もよろしくです。




