102 難民
ミナレアには七日で到着できた。
「こちらも道を整えないとな」
マイノカからミナレアまで七日から十日。天候が悪ければ十五日はかかるだろう。せめて五日で到着できるくらいにはしたいな。
「レオガルド様」
ミナレアに入る前の広場までくると、槍を構えたゼルム族の男らに迎えられた。
考え事してたとは言え、オレに気づかれず現れるとは凄いじゃないか。
「お前ら、ミクニールのヤツらか?」
着ているものが原始人だ。今のミナレアではこんな格好するヤツさいないだろう。
──ドーン!
「槍を下げろ! 獣神たるレオガルド様に槍を向けるなど敵対とみるぞ!」
銃士隊隊長のボゼが空に威嚇の弾を放ち、ミクニールのヤツらを一喝した。
ほぉう。ボゼのヤツ、すぐに動けるとは成長したじゃないか。銃士よりゼルの近衛兵にしたほうがよかったかな?
他の銃士たちも速やかに動いて銃口をミクニールに向けた。
「ルゼ公爵より聞いてないのか! 下げよ!」
槍の先がミディアに向いているので気がついた。ミディア、バリュードだった。
白いとは言え、姿はバリュード。バリュードに故郷を追われたら警戒して当然だろう。
「これが最後だ! 下げよ!」
これは見せしめが必要か? と思ってたらミゼルたち騎士たちが駆けてきた。
「槍を下げろ! 問題を引きこ起こすならミクニールは追い出すぞ!」
さらに騎士たちが駆けつけてきた。
三十人もいるってことはミクニールを見張るために残っていたようだな。
騎士たちがきたことで、ミクニールの男たちは槍を下げた。
「申し訳ありません。まさかレオガルド様たちに槍を向けるとは……」
「住処を追われて気が立っているのだろう。今回は許す。よく言い聞かせておけ」
別に槍を向けられたくらいでブチ切れることもないが、ミクニールに示しをつけるためにあえて厳しく言いつけておいた。
その場はミゼルに任せ、ミナレアの町へと向かった。
騒ぎを聞きつけたのか、いつもの迎え入れより人が多い。逆に身動きができなくなるから止めて欲しい。
「レオガルド様、よくお越しくださいました」
「ああ。ご苦労だったようだな」
「はい。ですが、昔を思えばまだ余裕があるので対処はできました」
備える大切さがわかってなによりだ。
他とも挨拶し、話を聞くために場所を移した。
主要メンバーからミクニールのことを聞き、難民の難しさにため息が漏れてしまう。
逃げてきたミクニールは二百人弱。大半が女子供で、戦力となる男はバリュードとの戦いで死んでしまったとか。しかも、他の氏族もミナレアを目指していると言う。
「食料はまだ大丈夫か?」
ミクニールが逃げてきたのは冬に入ってから。オレたちが立って少ししてからだから食料もかなり減っているはずだ。
「はい。去年のがありましたから秋までは持つかと。ただ、これ以上増えると厳しくなるかもしれません」
だろうな。ミナレアだけで千人。そこに二百人増えるとか、崩壊する未来しか想像できんわ。
「今年は森を切り開いて農地を作ることに力を入れるしかないな」
ゴノの実も採りすぎると収穫が低下する。均一に生らして均一に収穫するほうがいいと聞くからな。
「わかりました。ミクニールにやらせましょう」
「やるときはよく説明して納得させてやらせろ。高圧的に命令はするな。もちろん、舐めた口を利く者には容赦しなくていい」
難民問題は素人のオレが考えたって難しいとわかる。
こちらが助けてやったのだから言うことを聞けと言っても相手は素直に聞いたりはしないし、慣れたらあれこれと要求してきたり不満を言ってくるものだ。
「しばらくはオレがついて監督する」
オレがいれば不満を言う者もいないし、反乱することもないだろう。
「レオ、穴掘り?」
ミディアが反応を示した。
「ああ。穴掘りだ。ミディアも手伝ってくれ」
「うん、いっぱい掘る!」
知能は高いがまだ子供。誘惑には勝てないようだ。
「難民を追ってバリュードが防衛線までやってくるだろう。油断せず警戒を怠るな」
バリュードも防衛線を認識できてる頃だろうが、血に飢えた獣はすぐ忘れる。すぐに気がつけるように意識を集中させてろだ。
情報交換は二日ほど続け、オレらがきたことを知らしめるために第二次防衛線まで駆けた。
草食系のモンスターを探しながらオレらの臭いを辺りに散らしていると、バリュードの群れを発見した。
準モンスターに率いられた小型が六頭の群れで、バリュードの索敵隊だろう。
「ミディア。お前は小型のを狩れ」
「わかった」
風下に立っていたが、準モンスターがオレらの存在に気がついたようで、すぐに逃げ出してしまった。
三百メートルほど離れていたが、オレとミディアの脚から逃げられはしない。
数秒で準モンスターへと詰め寄り、風の刃で右後ろ脚を斬り裂いた。
転がるバリュードを追い越し、トドメとばかりに頭を踏み潰してやった。
「結構肥えているな」
冬を越えたばかりなのに体つきはよく、肉も弾力があって活きがあった。これは、冬の間でもちゃんと食っていた証だろうよ。
「レオ。狩ったよ」
「もうか。早かったな」
もっと時間がかかると思ったが、意外と早く仕留めたものだ。
「あんな小さいの、何匹いても苦じゃないよ」
知能だけじゃなく肉体の成長も早いものだ。
「じゃあ、次は準ランクのものを任す。呪霊攻撃を組み合わせて狩ってみろ」
オレも若い頃は風や雷を使いながらの狩りはできず、できるまでに二、三年はかかったものだ。
「わかった。──レオ。さっそくきたよ」
嗅覚はミディアのほうが上。オレには嗅ぎ取れなかった。
「活発なことだ」
まだ三口しか食ってないが、狩ってからも食えると気持ちを切り替え、次なる獲物へと駆け出した。




