100 開墾地
冬だと言うのにコルモアは熱気に包まれていた。
まあ、無理もない。女の数は限れており、男はその三、四倍はいる。これを逃したら一生独身。必死になるのも当然と言うものだ。
だからと言って無理矢理な男はオレが許さない。正々堂々、己をアピールして女の心を射止めろ、だ。
「なんだか獣みたい」
そんな人間らを見ていたミディアが呆れとも嫌悪ともつかない言葉を漏らした。
「それは人間も獣も同じ。己の生きた証を残そうとするものだ」
「なぜ?」
「遥か昔から命とは受け継ぐものと体に刻まれているからだ。だから、心で我慢しても体が求めてしまう。お前も腹が減ったら肉を食いたくなるだろう。それと同じで体が求めるんだよ」
「……全然わからないよ……」
「それは、生きて見つけていくしかないものさ。この世には答えはあるが、見つけることはとても難しいものなんだよ」
こればかりは前世の記憶があっても答えられないよ。自然の摂理か神のいたずらか。SSSランクの獣でも世界から見たらちっぽけな存在なんだからな。
「いずれお前も子を望む日がくるかもしれない」
「なら、レオの子が欲しい」
「それは無理だ。オレとお前は種が違う。種が違えば子はなせない。遥か昔に答えが出ているんだよ」
オレは同種でも子をなしたいとは思わないけどな。萎えるわ。
町中を歩き、野郎どもが悪さしないように歩いていると、女一人に野郎が八人も群がっていた。
「お前たち。紳士的に女を口説けよ」
獣のオレがなに言ってんだって気持ちもあるが、男尊女卑はなくしておきたい。が、女尊男卑もしたくない。平等、とまではいかないまでも尊重し合える社会にはもっていきたいものだ。
「女もだ。淑女であれ」
そう声をかけてその場を去った。
「とは言え、これでは仕事が捗らんな」
男にも女にも仕事があり、冬には冬のやることがある。お見合いばかりに時間を割いてばかりはいられないのだ。
幸いにして暦はあり、元の世界と変わらない大陽暦──ルード暦なるものがあり、一年を十二ヶ月にして三百六十四日ある。閏年みたいのもあり、調整できているらしい。
なので、日曜日を創り、その日を休みと決めた。
もちろん、全員が休むなんてできないので、土曜日休みと日曜日休みの者を決めさせた。
「いきなりやれるものではないからな、試行錯誤しながらやっていけ」
セオルにはそう言って丸投げした。ルード暦は人間たちのほうが馴染みあるからな。
「開墾地にいくか」
町中も大切だが、開墾にも人を回しており、農地を増やすことを急務としているのだ。
開墾には百人近い人間が従事しており、その世話に女もついている。
「調子はどうだ?」
開墾を指揮している者に声をかける。
「あまり進みはよくありませんな。樹の根が意外にも深く、広範囲に広がっていますので」
「そうか。まあ、大森林の樹は育ちもよければ生命力も強い。人力では進みもよくないか」
人力でこれだけ広げたほうが凄いだろうよ。
「罪人はまだ生きているか?」
反抗した者や見せしめで罪人には厳しくしている。死んでもしょうがないが、なるべくなら生かして働かせろとは命じていたのだ。
「反抗する者は使い潰しましたが、ほとんどは生きて使っています」
「それはご苦労さん。そのまま続けてくれ」
開墾する地を見て回ると、なにかうずうずしていたミディアが突然穴を掘り始めた。な、なんだぁ?
「楽しい!」
い、犬だから穴を掘るのが好き、ってことか?
前脚で、後ろ脚でと、あちらこちら掘り出した。
「……こんな習性があったとは……」
ま、まあ、土を耕されていいか。
「しょうがない。オレも開墾を手伝うか」
港と違い開墾は罪人への罰と人間の仕事としている。なんでもかんでもオレが手を出していては人間たちはつけあがると思ってな。
だが、ミディアがやり出したら人間たちとの関係をよくするために行動するとしよう。
それから開墾する者たちに混ざり、樹を倒し、根を引っこ抜き、ミディアが土を耕す。
今年は雪が積もらず、氷点下になることも少なかったから作業も順調に進み、春までにかなりの広さを開墾できた。
「まずは豆を植えます」
「豆か。食料になるのか?」
「いえ、まずは土を作るために豆を植え、生ったら家畜の餌とします」
「家畜は増えているのか?」
そういや、牧場にはいってなかったな。と言っても、オレらがいくと騒ぎ出すんで避けていたんだけどな。
「たまにはぐれの狼がきますが、順調に増えております。餌が追いつかなくてマイノカや農業村から分けてもらってるくらいです」
順調なら順調で問題は出てくるのか。発展とは難しいものだ。
「まだ手伝いたいが、ミナレアの問題もある。開墾はお前たちでがんばってくれ」
「はい。自分たちの暮らしは自分たちでやりませんとな」
「今さらだが、お前、名前は?」
前世の記憶があるのと記憶力は別問題。そうそう人の名前など覚えてられないんだよ。
「ゴズイと言います」
見た感じ、三十半ばくらいか。セオルと一緒にいたヤツかな?
「セオルや王にお前のことは伝えておく。しっかり成果を残しておけ。男爵に取り立ててやるから」
開墾が進めば新たな村なり町なりを創る必要になる。そのときゴズイを男爵として任せるとしよう。
「はっ。お任せください」
やる気があってなにより。できる男は出世させて、さらなる仕事を与えよう、だ。
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