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2.クレアの過去②

クレアの容姿は変わり果てていた。治った代償とでも言うように髪は母親似の焦げ茶から色素が抜けきった様な白銀に。髪の毛先は時々、花の様な形に分裂する。そして瞳の色も父親と姉と同じであり自慢でもあった翠から血の様な赤に変貌していたのだ。


クレアが生還したことに家族が喜ぶ中、クレア自身は素直に喜ぶことが出来なかった。助かった喜びよりも苦しんでいる姉に何もしてあげることが出来なかった自分なんかが生き残ってしまったという仄暗い感情の方が圧倒的に強かったのだ。

それに加えて家族以外の人間……行事に参加する貴族達はクレアの変貌しきった容姿を恐れ、どこに行っても気持ち悪がられる始末。


『完治したって言ってもまるで呪われた様な容姿――』

『あの子だけ助かるだなんて、悪魔と契約でもしたのか?』

『あんな異形の様な姿……気持ちが悪い』


自覚しているからこそ聞こえる陰口が耳に、心に刺さった。実際は妬みや恨みもあったのかもしれない。なにせ喰花病に罹って助かったのは国内外でもクレアだけだった。それにそれらの陰口の出所は大半がこの病気で娘を失った貴族だった。そしてクレア自身も姉を失っているのもあり、そんな人間達を恨む気にもなれなかった。行き場のない感情ばかりが募っていく毎日。


家の外に平穏はなかった。これらはクレアの心を追い詰め、心を閉ざさせる要因になっていく。


心を全てから閉ざして、何かに心を動かされることもなく、貴族令嬢として最低限の事をこなすという無気力な生活をして2年ほど。そんな時だった。クレアに婚約者が出来たのは――。


婚約者はこのクロシュテイン王国にて第二王子であるエスト=フィア=クロシュテイン。数年前に第一王子だった兄が急死し、王位継承権第一位となった人間だった。

婚約の理由は単純だ。エストに年齢が近く、王族に最も釣り合う血筋を持つのがクレアだったからである。喰花病の被害は甚大だった。


そしてその婚約の話はクレアの両親も乗り気だった。

クレアに対しても『エスト王子はすごくいい子だったから、きっと貴女の助けにもなってくれるわ』との一点張りで折れる事が全くなかったのだ。


後々知った事だが、エストも彼女と同様に自身の兄を大層慕っていたらしいが、その兄はもうこの世にはいない。

近い境遇の彼ら。けれど彼がクレアと違ったのは兄の代わりに次代の王になるべく前を向いたことだ。

両親は似た境遇のエストをぶつけることによって少しでもクレアの自分自身を断罪するような頑なな考えを変えたいという思惑もあった。変えられなかったとしても、家族ではない存在であるエストという婚約者からの刺激によって少しでも前を向いてくれたら――と考えていた。


そしてそれは狙い通りの結果になる。最初こそは『俺はお前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない』などと言われて憤り、驚きはしたが、エストは決してクレアの容姿を見ての差別はしなかった。むしろ容姿などどうでも良さそうにしていたのはクレアにとっても気が楽だった。


それだけではない。エスト自身が表面上の婚約者などと言ったくせに彼はクレアが容姿の事で陰口を言われていれば『何故言い返さない!?』と怒りながらも必ず庇ってくれたし、クレアが出来ない事があれば『俺が恥をかきたくないだけだ』と言いながらも丁寧に教えてくれた。

そういう彼にクレアが持った印象は”口は悪いが、両親の言った通り良い人間”だった。それに加えてエストは偉そうな言葉とは裏腹に才能に驕ることなく、良き王となるための努力をし続けているのもクレアからしたら好印象でしかなかった。


そんな彼の隣で過ごすうちにクレア自身も変わっていく。

いつまでも姉に対する罪悪感に囚われ、自分の罪に怯えるのではなく、姉を奪った病気に立ち向かおうと決意する。

そして一から医学・魔法薬学について学び始めたのだ。


クレアのこの数年間の努力のお陰で、喰花病に対抗する薬は先日完成した。

これは家族に託して、最後の置き土産に残していこうと思っている。エストの時間を今まで貰っていた対価にはなるだろう。


こうして全ての準備は整った――。


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