第20話 「政治家になるなんて軽々しく言うな!」
「ぜひ、俺をあなたの弟子にして下さい!」
ユウタロのその言葉に私とアイリーンの2人は驚いた。
「で、弟子って本気なの? ……ユウタロ」
「ああ、俺は本気だ。俺は政治家の弟子になってみたいと思っていた」
「バカなあなたじゃ無理に決まっているわ」
アイリーン。君はあまりにもストレートじゃないか。もう少し本人に気づかれないぐらいの婉曲表現で言うべきだと思うんだが。
「ハッハハ。それほどでもないぞ」
……ああ。ダメみたいだ。
こんなにストレートにバカにしているのにまったく聞いていない。驚くべき程のバカだ。
私は気づいてしまった。とても残念なことを。
ユウタロには何を言っても無理な気がする。そんな彼が政治家の弟子になる。……考えるだけでもかなりおぞましいことだ。
「なあ、アイリーンちょっといいか」
私はアイリーンを呼ぶ。
アイリーンも私の意図を読み取ったのか私の側に来てくれる。私はアイリーンの耳元に顔を近づけて小声で話を始めた。
顔を近づけたせいなのかアイリーンの顔は少し赤かった。
(ユウタロって本当に政治家を目指しているのか?)
(いえ、私も初めて知りました)
(諦めさせることはできないのか?)
(む、難しいでしょうね)
(そんな気がする……でも、彼の能力は政治家には完全に向いていない。諦めさせないといけないものだ)
(うーん、頭良くないからね)
本当にストレートに言う。アイリーンのいいところでもあるが、人間関係でいろいろと問題も起きそうだからそのあたりの助言は後でしないといけないな。
(とりあえず、断わるか)
私は覚悟を決めた。
「ユウタロ君」
「は、はははい」
さっきまでの威勢の良さはどこにユウタロは私と話をするのにかなり緊張していた。
「君は政治家には向いていないと思うが、どう思っているかね」
私もアイリーンのように正面からストレートに言う。
「……わかっています。でも、俺は政治家になりたいんです!」
その言葉に嘘偽りはなかった。
ふざけているだけではない。真剣に言っている。そのことはよくわかった。じゃあ、私はこの言葉に対してどのような言葉を返せばいいか。決まっている。
「そうか。でも、今回は諦めてくれ」
「え?」
「え?」
私はもちろん拒絶した。
あまりにストレートな拒絶だったのかユウタロだけでなくアイリーンも驚愕している。うん。驚いている驚いている。
その様子を見て性格が悪いことに滑稽に思えた。
「そこはいいって言うんじゃないですか?」
アイリーンが恐る恐る言う。
「そんなに政治の世界は甘くない」
私は断言した。
私は政治家を長くやっている。ゆえに政治家の大変さをかなり理解しているつもりだ。バカには政治家を務めることはできない。ただ、金があれば別であるが。
だが、私はそうであれバカには政治家をやってもらいたくはない。
「政治家になるなんて軽々しく言うな!」
そう言い、私はユウタロを一切見ず、その場を跡にするのだった。




