第16話 「2人ともケンカしないで。わかった。あなたの話を私は聞くから」
「単刀直入に言うが、大臣になってもらえないか? 科学技術担当の」
「断ります」
「そうか」
私は、それを聞くとそのまま部屋の出口へと向かう。
「ちょ、ちょちょちょっと」
それを止めたのはアイリーンだった。
「どうしたんだ、アイリーン君」
「いやいやいや、どうしたんですか? あんなにあっさりと引き下がっちゃって。ここまで必死に私が案内してきたのにたった一言で会話が終わってしまうって私の努力がなかったことになるようで嫌なんですけど」
アイリーンがものすごく私の近くに寄ってきた。
そんなに強く詰問されるとは思ってもいなかった。
「いや、だって絶対に無理だろうと判断したから私は諦めただけだ」
私は、政治家だ。判断を誤ることをしようとしない。この件は無理だと判断した。これ以上、交渉しても彼女、ルルーラは私の提案に乗らない。そう判断しただけだ。この部屋に入った時点からそんな気がしていた。自分の研究にしか興味がなさそうであった。そうであるならば私の提案に乗るはずなんてない。だから、諦めただけだ。言うならば、戦略的撤退だ。そうじゃなければ発言の取り消しだ。
「諦めるって……大人ってそういうもんなんですか」
大人ってそんなもんですか、か。確かにそうだな。大人になれば若いころのような柔軟な考えやチャレンジはできなくなっていく。
「大人はそんなもんだ」
私は冷たく言い放つ。
アイリーンには現実を教える。
「へえ」
アイリーンも冷たく言う。
俺とアイリーンの間には嫌な空気が漂う。お互い目と目がバチバチとぶつかる。一触即発の状況になった。
「2人ともケンカしないで。わかった。あなたの話を私は聞くから」
俺とアイリーンがにらみ合い喧嘩っぽいことをする。ただ、私としてはケンカしているつもりはない。
「ふふふ」
「あははは」
「え?」
「じゃあ、私と話をしてもらおうか。大臣についての話をね」
ルルーラは、何が何だかよくわからないような顔をしていた。
まあ、結論から言うと私とアイリーンは最初からこうなることを予期して口合わせをしていただけだったのだ。
ケンカして俺達の心配を誘い、話のテーブルにのせる。それが私の作戦であった。そして、その作戦が無事成功した。
「……私は、はめられたのね」
「まあ、そうだな」
「……わかった。話は聞く。だけど、その話に乗るかどうかはまだ分からないわよ」
「それでも全然いいぞ。じゃあ、話をすることにするか」
そう言い、私は話を始めるのだった。




