59 愉快犯
ミノタウロスがこちらに振り向きニヤリと笑った。
こいつ何してたんだ?
「迷宮から許可が出たぞ。お前さんを人間に戻してやる代わりに迷宮踏破しても褒賞なし、ここの迷宮核への挑戦権永久剥奪の上茶飲み相手になること。そして道中でもし死んだらゾンビとしてこの迷宮の運営に関わること。更にそこの二匹の迷宮妖精は知識と経験を迷宮が貰って魔素に還る。これが条件だが」
は?ちょっと待て…。つまり…。
一、迷宮踏破しても褒賞なし。
二、迷宮核への挑戦権永久剥奪。
三、茶飲み相手になる。
四、道中で俺が死んだらゾンビになって迷宮で戦う。
五、また俺が道中で死んだ場合、ユキとモモも知識と経験を迷宮が奪われ、魔素に還る。
この五つか?よくわからん…つーか迷宮は暇潰し相手が欲しいのか?人間くさすぎやしないか…?
「そんなことができんのか?」
「今この迷宮に入っているのはお前さん一人の上、初の迷宮侵入者だから特別、らしいが」
初回特典?
「いくつか質問いいか」
「構わない」
ミノタウロスは応用に頷く。
「人間に戻るって退化ってことか?幻獣になって上がったスキルや能力はどうなる?」
「そのままだ。姿形が人間に戻るだけだ」
「そんな簡単に姿形を変えられるのか?俺は迷宮が作り出した魔物ではないが」
「ああ。戻す、というより人間になるスキルを与えるってことだから可能のようだ」
「それと、踏破報酬って迷宮核のことだよな?最下層のボスは迷宮核が魔物の姿形をとったやつが相手なんだろ?つまりそいつへの挑戦権が無くなる、つまり戦えないってことはこのまま進んでも俺は地上へ出られないのか?その上迷宮核も手に入れられないってことか?」
「ふむ?ボスは別にいるぞ。迷宮自身…迷宮核も確かに魔物の姿形をとっているが…例えるなら真なるボスのようなものだな。迷宮核が欲しいのなら倒すしかないが…迷宮はこの世界に溜まった魔力を減らす為に作られたから安易に迷宮核を手に入れられても困るな。迷宮核を手に入れた人間が迷宮を維持してくれるのならいいが…。そこの妖精たちから聞いたのか?」
「ああ」
「ふむ。五十階層に迷宮核ではないボスが居て、そやつを倒せば迷宮核へ挑むことができるが…ボスを無傷で圧倒的に倒さない限り挑戦権は無く、そのまま地上に転移させられるのだ。だからお前さんがボスを圧倒し、迷宮核を倒すことのできる力を得てもこの迷宮の迷宮核に挑むことができなくなる」
つまり五十階層のボスを無傷で倒すくらいじゃないと迷宮核とは勝負にならないってことか?まあ別に地上に戻れるならそれはどうでも良いか。
にしてもモモが言っていたことと違うな…。モモに視線を向ける。
「私の知識にはボスを倒すと迷宮核を手に入れられるってあります!以前も言ったように迷宮核を手に入れると力を手に入れられたり、その迷宮核を使って迷宮を作ることもできます!」
「ワタシの知識にもそうあるわよ?」
嘘をついているわけじゃあないのか。
「微妙に言っていることが違うが…」
「迷宮が作り出した我々ボスを倒しても迷宮核は手に入らないが、迷宮の大元という意味で迷宮核をボスと言うならばまあ間違ってはいないな…。おそらく人間に迷宮を積極的に攻略してくれるように敢えて情報を絞って妖精に与えたのではないか?」
つまり曖昧な褒賞というより、力や迷宮を作れる…ダンジョンマスター的な力が手に入れられる迷宮核という明確な褒賞の方がやる気が出るだろう、って情報を限定してモモたち妖精に知識を与えていたのか?
まあ少し食い違ってはいるが間違ってはいないのか。
五十階層にボスがいるし、その背後には迷宮核というボスがいる。
それでドロップアイテム…褒賞はそれぞれあるってことか。
モモとユキ、ミノタウロスと持っている情報が違うから混乱するな…。それにミノタウロスを進化させて四十階層に配置して、更に会話させた上こんなとこで褒賞を与える、しかも茶飲み相手になれと?死んだらゾンビとしてこの迷宮で働けと?
俺の中の迷宮核のイメージがただの愉快犯になってきたんだが。ふざけているのだろうか。
まあ人間に戻れるなら…褒賞も別にいらないし条件を飲んでもいいか…?俺が迷宮に潜っている元々の目的は魔法のスキルと【時空間魔法】を使う為に必要なスキルの取得だし。
一度試してできなかったが、転移で外に出られるのなら出て行ってるし。
……待て。茶を飲みにまた五十階層降りてこいってことか!?そんな面倒なこと…だが人間に戻るには…。
おそらく俺ならミノタウロスを倒し迷宮核に辿り着けると思われたからここで褒賞を先に渡してやる、ってことなんだろう。だから先払いだから条件が付く。
つまりこの姿のまま最下層まで行ってボスを倒せば、茶飲み相手になるとか、挑戦権がどうたらとか関係なく人間に戻れるスキルが貰えるんだよな?
ならリスクを負う必要はないだろ…早く人間にはなりたいが…。
「ちなみにここで褒賞を受け取らず五十階層のボスを倒しても褒賞はランダムになるらしいぞ」
「!?ふっざけんなよ!迷宮核悪質過ぎるわ!絶対愉快犯だろ!」
「我に言われても困るが…」
つかこのミノタウロスがちゃんとボスとしての役割だけを果たしていればこんな悩むことなんてなかったんだ。
わかった。この際仕方ない。迷宮核の思う通りなんだろうが人間になって、攻略した上で茶飲み相手にでもなんでもなってやるわ。
その代わり人間に戻ってミノタウロスボコボコにする。そして迷宮核も絶対に一発殴ってやる。茶を同じ空間で飲めば良いだけだ。会話できるのかしらんが…いや、モモ達が出来るのに出来ないわけないか。とにかく同じ空間で茶だけ飲んで無視してやればいい。
「わかった。その条件受け入れる」




