1 崩壊
『地球上の魔素値が危険域になりましたので、ただいまより地下空間全てがダンジョン化することになりました。同時にダンジョン内に魔素が満たされ生物が発生し、ダンジョン内で魔素を吸収した生物の能力開放が行われます。また人類に対し敵意を持たず、高い知能を有したダンジョンフェアリーが生成されます』
「なんの放送だよ」
「なんなの?」
「放送事故?」
「ダンジョンだってよ!」
「ゲームの広告?」
今日は俺は服や本などを買いに街へ繰り出している。目ぼしいものを探し、地下ショッピング施設を歩いていたら突然頭に鳴り響くような音声が聞こえた。
魔素値?
地下空間のダンジョン化?
生物の発生?
ゲームの設定のような放送が流れる。いや、放送ではない気がする。
新宿の地下施設にいた俺の周りの人々は放送ミスか、何かの広告、または悪戯放送だと思ってか大半の人間が足を止めずそのまま去っていき、食事を続け、買い物を続ける。
どう考えたっておかしいだろう? 普通の放送じゃあない。頭に直接響いた…というかイヤホンから流れたんじゃないかってくらい明瞭に聞こえたぞ。この雑音だらけの場所でだ。なんで皆気にしないんだ?
いや…ちらほら立ち止まって連れと話している人も見える。
確かに、なにかの広告か放送事故だと一笑に付してもいいのだろうが、なんだか嫌な予感がするのだ。
このままここに居ては不味いのではないだろうか? 地上へ向かった方が良いか。
そう考え移動を始めた途端、すぐ大きな揺れが起こった。
突如の揺れ。
見える範囲にいる人はバランスを崩して倒れ、膝を突いたりしている。
俺も倒れてはいないが、両手を壁に添えて耐える。
止まらない揺れに焦ったのか、周りの人々は慌て、動けない者は怒鳴り、叫ぶ。
また動ける者はよろけながらも移動し、逃げ惑う。
だが、それも長く続かなかった。
地面が陥没し始め、天井が崩壊していく。
俺も周りも覚束ない足で必死にそれを避けたり逃げたりしたが、崩れたところから落ちる者。それを見て足を止めた者は割れた電球を浴び悲鳴を上げる。また瓦礫に押し潰される者と悲惨な光景が広がる。
かろうじて走ってると言える速度で歩いていた俺も足を止めてしまい、その瞬間俺の足元が崩れ……意識を失った。
♦︎ ♦︎
「起きてくだーい。おーい? 生きてますよねー? まあこんなとこまで落ちてきて生きてたらキモいですけど、胸動いてますよね? あれ? 脳死とかです? おーい! あ…これ本当に死んでます?」
「う、る…さいっ!」
「ひゃ!?」
煩くてつい怒鳴ってしまう。そして何故か痛む頭を抑え上半身を起こす。
「あ! 生きてました! もう! 突然声出さないでくださいよ! 驚いちゃったじゃないですか! そしておはよーございます!」
「あぁ? おはよ、う? だれだ…?」
目を開け声のした方へ視線を向けるが誰もいない。
あれ? 幻聴?
つか身体が痛いんだが…腕が痺れてるのか感覚がない。
…俺の腕、大丈夫だろうか…。
というか、ここ家じゃないよな。薄暗いが…土壁? 壁には明かりが灯っている。床も土? でも触った感じコンクリっぽい。
どこだここ。
家ではないと…今日は買い物に行って…!?
そうだダンジョン化すると聞こえ地面が崩れたんだ。崩れたところから落ちた上、なにか瓦礫に当たった気がする。死んだかと思ったが生きてか…。
よかった…。
「あのー無視ですかー? それとも聞こえてませんかー? 生きる屍と書いてリビングデットさんですかー?」
やっぱりなんかきこえる。しかも人を小馬鹿にしたセリフだ。
キョロキョロと周りを見ていると…。
「ここですよ! こーこ! 上っです!」
上?
視線を上げてみると…なにかが浮いていた。
「ヒヨコ…?」
「ダンジョンフェアリーです! 迷宮妖精でもいいですよ! ヒヨコではありませんからね!」
あ? ヒヨコが喋った。
うん…? ヒヨコが羽根をバタつかせて飛んでるんだが…。ヒヨコって飛ばないし…話さないよな!?
あ…いや、ダンジョンフェアリーって…あの響く声がそんなこと言っていたな。ダンジョンフェアリーが生成される、と。それか。不思議現象からの不思議生物…ね。オーケー。そういうものなんだろう。
「それで何の用だ?」
「え?」
「あ?」
「あ、あのあの。もっと驚くこととか、聞きたいことないんですかー? ほら、なんでヒヨコが喋ってるのか、とか。なんで浮いてるのか、とか。なんで発光してるんだ。とか」
いや、確かに気になったが…。
「ヒヨコで合ってたんだな」
「ち、ちがいます! 言葉のあやですフェアリーですー!」
言葉の綾って…なんだ。
「なんでもいいけど、ここはどこかとか、お前がなんなのかとか説明できるなら頼むわ」
「人間さんって淡白な方なんですね…もっとこう…慌てふためき、質問攻めにされ、私が得意気に説明し、感謝される。っていう展開を想像していましたー…」
このヒヨコ人間馬鹿にしてる?
「早く」
「あ、はい。まず私はダンジョンフェアリーです! 迷宮妖精って呼び方でもオーケーです! ちなみに名前はありません! ダンジョンに生み出されたばかりですがダンジョンによって色々な知識を与えられ、一応人間をサポートする役割があります! 一応っていうのはサポートするべく産まれたけど、私達にも感情はあるので気に入ればサポートしてあげるって感じですけどね!」
「そうか。で?」
「え…。もっと反応してくれても…」
しゅん…と俯くヒヨコ。
「続きを」
「まあ…簡単に言うと、地球上の生物は大昔に全く魔素を使わなくなったそうで、そのため魔素の需要と供給が成り立たなくなってしまったのです。魔素が過剰に溢れ返ると生物が生きていくことが難しくなってしまうのためこの星は地下空間に魔素を押し留め続け、それも限界になったのでダンジョンと魔物を作り魔素を散らすことになったのです」
「待て待て…魔素が存在していたことも驚きだが、星が? 神様とかではなくなんで星なんだ?」
「神様みたいなものですね。この惑星自体が意思を持っていると言ってもいいんじゃないですかね? 意思、というよりも…あ、お名前聞いてませんでしたね。ついでに私に名前をつけてくれると嬉しいです」
「はあ。お前の名前ヒヨコじゃないのか。俺は泉 大地だ」
「だーかーらー! ヒヨコじゃないですっ! あ…はい、大地の泉さんですね!」
「泉だ。お前の名前はヒヨコな」
「大地さん人の話聞いてますー? 難聴ですかー? ヒヨコじゃないって何度も言ってますよー?」
「泉だと言っているだろう」
「下の名前が大地ですよね? なら大地さんとお呼びします! ご主人様でも可です!」
「ならご主人様で」
「!? 冗談で言ったのですが…」
「はあ。大地で構わん…ちっ」
「今舌打ちしました!? しましたよね!? 何が気に入らないんですかー!」
「ヒヨコが嫌いになりそうだ」
「だーかーらー」
「わかったわかった。なら…非常食…とか」
「!? わ、わたしの身体は完全に魔素で構成されているので食べるところなんてないですー!」
「使えんな」
「な、なんという人ですか…他の人間探しましょうか…サポートするのはこの人じゃなきゃいけないわけでもないですし…」
「冗談くらいわかれ」
「わっかりにいくですー!」
「ササミとモモ、どっちがいい?」
「やっぱり非常食じゃないですかー!」
「可愛らしいと思うんだが」
「むむ…。た、たしかにお肉の名称じゃなく果物由来のモモなら可愛いですけど…」
「ならモモに決定な。果物由来だ。鳥モモとは言っていない」
「い、いま言いました! 発音も果物っぽくないです!」
「それよりモモ。早く説明してくれ」
「え、えー…納得いきませんがまあ、いいです…モモって名前も悪くないですし。発音が少し気になりますが…。えーっとどこまで話しましたっけ?」
「惑星の意思がどうとか、意識だどうとかだ」
「あ、そうでした! 惑星は大地さんにわかりやすくいうとAIみたいなものです! それでこの惑星がダンジョンを生み出し、そのダンジョンに人間のサポートのために生み出されたのが私たちダンジョンフェアリーなのです! 惑星は魔素を地下に止め、ダンジョンをつくり、ダンジョンにいる魔物を人間たちに倒してもらったり、特殊な技能を発現させて魔素を消費してもらおうとしてるのです! このまま魔物も倒されず、魔法など特殊な技能を使わなければまた魔素が溢れ、次は地上に魔物が溢れ返ることになるらしいです」
「ほー? その知識はダンジョンか惑星に埋め込まれたものなのか?」
「埋め込まれたって…まあ生まれた時にそういうことは一通り知識として知っていましたね」
「それはずいぶんと親切なんだな? 一気に話を聞いても覚えきれないし。とりあえずここはどこなんだ?」
「ここはダンジョンの地下十…九層です! このダンジョンは五十層まであって結構大きめのダンジョンですよ!」
「何故疑問系? 俺地下一階にいたのに十八階層分もおちて良くいきてたな…」
運が相当よかったのか…。
「私もさっきここで生まれたのでまだわからないこともありますよー」
「そうか…。まあ、何階層でも生きてて運が良かった」
「本当ですよねー。ダンジョン内で一定時間魔素を浴びているとその人の潜在的な能力や技能が発現するので、ある程度の時が経てばその頑丈さはあり得ますけど…。あ、人によっては魔素との相性がよくて吸収した瞬間に能力が発現する場合もあるみたいなのでそれが原因かもしれません!ステータス表示って言えば能力一覧が出ますのでやってみてください」
「ステータス表示?」
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個体名【泉 大地】
種族【日本人】
性別【男】
Lv【1】
・戦闘スキル
【格闘術2】【受身3】
・耐性スキル
【苦痛耐性2】【物理耐性2】【毒耐性3】【精神耐性3】
・固有スキル
【再生】【種】
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