第1夜
こんばんは。お疲れ様です
©️秋の桜子さま
いらっしゃいませ。
ここは、まっくら森のまっくら屋さんでございます。
お客さんは、ずいぶんひさしぶりですよ……なにをおもとめでしょうか?
「なにかおすすめはありますか?」
では、こちらはいかがでしょう。
夜のやみのまっくらです。
「すてきですね。おいくらでしょう?」
ひとふくろ30円です。いくつおいりようでしょうか?
「ひとつでいいです。はい、30円」
ありがとうございます。
「ほかにはなにかありますか?」
ではこちらはいかがでしょう。
ふくろうのなきごえと夜の花のかおりのジュースです。
「ではそれを下さい。おいくらですか」
10円です……はい、どうもありがとうございます。ここでのまれますか?では、ストローをおつけします。どうぞ。
「ありがとう」
いかがでしょうか?
「夜のくうきをあんぐり食べたときみたいで、おいしいですね」
お口にあって、よかったです。
「もっと、なにかありますか?」
では、こちらはいかがでしょう。
夜の海の、なみをあつめてつくったケーキです。
「この、ときどきキラッとするのはなんですか」
なみでくだけた、お月さまのかけらです。
「この、ときどきピカッとするのはなんですか」
とうだいからこぼれたあかりです。
「ではそれもください。おいくらですか」
10円です。どうもありがとうございます。……食べていかれますか?それならフォークもおつけしましょう。
「ありがとう」
いかがでしょうか?
「ずっと食べていたくなるあじですね」
お口にあって、よかったです。
「もっと、なにかありますか?」
そうですねえ。今でしたら、まっくら犬などいかがでしょう。
「どんな犬ですか」
昼はおしいれの中なんかにいますね。夜はどこにでもいますけど、すがたはみえません。でも、あなたのことがとてもすきみたい。
ほら、お手々をペロペロしてるでしょう?
「くすぐったいです」
ほら、こんどはほっぺをペロペロしていますね。いっしょに遊んであげると、とてもよろこびますよ。
「おいくらですか?」
もうしわけないのですが、とってもたかいのです。5万円です。
「それは……むりですねえ」
そうですか。では、ただでさしあげましょう。あなたにとてもなついているから。
「ほんとうですか、うれしいな」
だいじにしてあげてくださいね。
「もちろんです。ありがとう」
いいえ。まっくら犬もうれしそうですよ。
「ほかになにかありますか?」
こまったな。もうないぞ……あ、そうだ。よろしければ、こちらのつぼをごらんください。
中に、いろいろなまっくらが入っているので楽しいですよ。
ちょっとのぞいてみてくださいな。
「これは……とってもこわいまっくらです」
もっとずっと、おくまでのぞいてみてくださいな。
「おにがひとを頭から、ばりばり食べています」
おや、それはこわいですね。では、ちょっとまほうをかけましょう。そぉれ。
「こんどは、うちゅうのまっくらです」
もう少しのぞいてみますか?
「はい。ぎんががあります。月のうさぎさんが10ぴきも、うちゅうせんをながめています」
そうですか。次は、なにが見えるかな。そぉれ。
「こんどはなんだかとっても、きもちのいいまっくらです。やさしいかんじです」
もう少しのぞいてみますか?
「はい。あっ、ここは、天国ですよ。ぼくのおじいちゃんがいます」
会えてよかったですね。おじいちゃんは、何をされてますか?
「ごはんをいっぱい食べてます。すごく元気みたいです」
それは、ほんとうに良かったですね。次は、なにが見えるかな。そぉれ。
「これはよくしってるような気がするまっくらです。なにだったかな」
もう少しのぞいてみますか?
「…………………」
いい夢みたいですね。
それでは、今日はもう、おやすみなさい。
お休みなさい、よい夢を(^^)