練習曲“エチュード”
彼はただそこで奏でてる
多数の数えきれない骸の中で
ただひたすらに奏でてる
僕の目の前に写るのは
神の愛を説きながら
銃を乱射するテロリスト
そしてそれに対抗する
正義感溢れる警察官
そんな光景を前にして
彼はそこで奏でてる
ヴァイオリンのような楽器を
手にもち肩にかけただひたすらに
音色を空に奏でてる
その光景はただただ異質に
ただただ異常だった
でも僕は動けない
今すぐに入り口へ走って逃げられるのに
それでも僕の足は動かない
恐怖で震えて動かないんじゃない
ただただひたすらに奏でてる彼を見てると
ただただ不恰好な曲を聞いてると
歓喜に心が躍るんだ
僕もおかしくなったのかと思って
すぐにどうでもいいと答えがでた
ただただ僕は立っている
すすだらけの格好で
彼の演奏に酔いしれる
彼の曲は下手なんだ
基本がなっちゃいないし
音もぶれる
それでも僕は酔いしれる
彼の心に酔いしれる
そして曲に混ざるあの歌詞を
僕も自然と口ずさむ
〝これはあなたの練習曲〟
〝これは私の練習曲〟