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まるで世界は素晴らしい。  作者: 912
全ての意味
10/11

9黒をまとった蝶。

 魔界に来て、どれくらいの時間が経っただろうか。

 天空の話をして、魔界の話をして、とても楽しい。

 どうして、魔界と天空はこんなにも長い時間戦い続けているのだろう。

 

「最初はさ、天使と悪魔が争ったんだ。ほんとに小さいことさ」

「天使と悪魔か…」

 天使と悪魔の争いにより、天空に住む子供が死んだ。

 悪魔の放った術が、子供の脳幹を貫通した。

 子供は、灰となって二度と転生できなくなった。

「ここで死んだ奴は、存在が消える。だから転生できない…魔界も天空もこればっかりは一緒だ」

 その後、魔界と天空は何度も戦争を繰り返し、今もなお対立している。

「まあ、魔界にいる奴らが全員、天空の人間を嫌っているわけじゃない」

「そうだな。俺も魔人だ聖人だと分けるつもりもない」

 ここに集まる本たちが増えれば増えるほど、争いは多くなるのだろう。

 一体、何人の人間が死んだのだろうか。

 …考えるだけで頭が痛くなる。

「そういえば、この本の中にも主人公がいるのか?」

「あぁ、いるぜ。帰ってこないけどな…」

 帰ってこないとはどういう意味なのだろうか。

「戦死する奴の方が多いけど、生きてるやつは本の中で生活してる。あとはその家族とかが住んでるから、管理もしてる」

「……良い所なんだな、きっと」

「戦いも終わって、二度と争いが起こらない世界。きっと幸せだろーよ」

 遠くを見つめるマイルは、何かを呟いている。

『…そんな時代に生まれたかった』

 どこか悲しげな表情。

 過去に何かあったのだろうか。

 だが、きっといい記憶ではないのだろうと考え、口に出すのをやめた。

「リフってどれくらいの大きさがあるんだ?」

「魔界の3分の1だな。…と言ってもほとんど開放してあるから、入れない場所はホントにごく一部だけどな」

「でも、十分広いな」

「魔術生成に広い部屋がいるんだ。殆どその部屋だよ」

 フェストと比べるとおよそ100倍くらいあるのではないだろうか。

 そう考えると、本当に広い。

「今度天空に来るといい。天空の城はこれに比べたら本当に小さいんだ」

「おいおい、無理だろ。魔族は敵で今戦争真っただ中だろ…入れるかよ」

 魔界に住んでるだけで、危険だと判断するのはどうだろう。

 同じ魔術師で、ただ族種が違うだけ。

 きっとリストは入れてくれるはずだ。

「明日、迎えに来る…と言っても一人じゃ来れないけどな」

「馬鹿だな」

 そういって笑うマイルの顔をみて、何かを感じた。

 何かを、思い出せそうだ。

「そこの転送装置を起動させてみな」

「…あれか」

 ガラスの箱一面に術式が描いてある。

「天空の裏町に出られる…けどこれの事は内緒な」

 パチっとウインクをして、ガラス箱に押し込まれた。

天送偽転てんそうぎてん

 恐らく転送術ワープの呪文だろう。

 目をつぶって、身体を空間に預ける。

 ふわりとした感覚が終わると、目を開いた。

「…裏町、005番地区か」

 005番地区は、あまり人が住んでおらず警備も甘いため、転送先には最適な場所だ。

「見つからないうちに帰ろう」


 フェストへと戻ると、リオが今にも泣きそうな顔で駆け寄ってきた。

「カイト…どこに行ってたんですか」

「…裏町を見に行ってた」

「だから言っただろう。カイトも子供じゃない、天空内くらい自由に行動させてやれ」

 レイスがこちらを見て、すごく怖い顔をしている。

 何に対してだろうか。

 リオに心配をかけたことなのか、嘘をついたことなのか。

 近くの部屋を指さし『入れ』と口を動かす。

「リオ、リストにカイトが帰ってきたと伝えてくれ」

「分かりました…」


 部屋の中に入ると、カーテンが閉まっていて薄暗かった。

「カイト」

 レイスが指を鳴らすと、赤い明かりがついた。

「…で、なんで魔界に行ってたんだ?」

「起きたら魔界にいた。魔界で案内人と仲良くなって、話し込んでたら遅くなった」

 レイスは何も言わず、少しの沈黙の後『分かった』と答えた。



 次の日、リオとレイスに同行してもらい魔界の入り口へとたどり着いた。

「元々、この入り口は誰でも通れるのですが、最近は低級悪魔が多く危険なので規定ができたのです」

1、魔力が1000を超える場合、魔力を封じる魔石を所持するか、魔力封じの印を取得、あるいは取得している者の同行が必要。

2、身長160センチ以上(魔界調査に必要な条件)であるか、同行者が必要。

3、成人(16歳)であること。

「カイト君の場合は、160センチに達していないので一人では通れないんですよ」

 俺の今の身長は156センチ。

 …この世界では身長は伸びない。

 生まれ持ったものだ、仕方ない。

「……早くいくぞ」


 リフの近くまで行くと、黒服の男が立っていた。

 隣にはマイルがいる。

 守護者だろうか…?

「マイル、迎えに来た。…隣の黒服は」

「あぁ、こいつは黒士。……ヴァーノの使いさ」

 リスト・ヴァーノか。

 と言う事は、魔王の使い…。

「すいませんね」

 黒士は、気を抜いた隙に背後へと回りこみ、俺の身体を抑え込む。

「カイト君!」

「おい、マイル…。なんのマネだ」

「さあ、…命令?」

 昨日と雰囲気が違う。

 この顔がマイルの正体だったのか。

「だましたのか」

「うーん…。別にお前となれ合いたいわけじゃないしなぁ。勝手に騙されただけじゃない?」

 どうする。

 体は黒士に抑え込まれているため動かせない。

 リオ達も、身動きが取れない様だ。

「死んでもらおうか、皇子アルヴォール様?」

 ……こいつは昨日話したマイルとは違う。

「なあ、マイル…。俺、お前に自分の正体を明かした覚えないんだが」

「……は?」

「なんで、俺が皇子だって知ってんだよ」

 こいつは過去の記憶がない。

 魔界の情報を取り込んでいるだけ。

 だから、天空の事は知らない。

「お前、誰だ…」

 ニヤリと笑うマイルは、何か呟き始めた。

 長い袖の中で、手が三回動いた。

ザン‼」

 突如青く光る陣が現れ、光線のようなものがこちらへと飛んでくる。

「おいおい、私も巻き込むのか!」

 黒士が焦ったように、言葉をこぼした。

 今なら逃げ切れるか。

 幸い、焦りからか腕の力は弱くなっている。

「レイス‼」

 そう呼ぶと、目の前にはリオとレイスが現れる。

 光線は、黒士が放った術によってかき消された。

「危ないな!」

「…まて」

 黒士に声をかけると、リオが何かを悟ったように術を放った。

「催眠術を掛けたのか」

「えぇ、カイト君の大切な人ならば、気付つけるわけにはいきません」

 そんなやり取りをしている俺たちの間に、黒士が割り込んでくる。

「……先ほどの術。貴方は…」

「……黒士さん?」

 リオは一歩後ずさり、苦笑いをする。

「黒服に似合う長い髪、バラのように赤い唇…。貴方は、魔界調査官司令官の…セイゼル・リオ」

 黒士はリオの手を掴むと、強く握った。

「最級クラスの魔力と才能を兼ね備えた、総合魔法の使い手。S形式でありながら、その威力と持続時間はQにも劣らないという…」

「…なんでそんなに詳しいんだよ」

 きっとリオもレイスも、同じことを考えてただろう。

「昔、調査に来ていた貴方を見て恋に落ちたんだ。髪の色は変わっていたが、術を見て思い出した…」

「おい、リオ。もう帰ろう…、こいつは危険な気がするんだ」

 レイスがそういうと、黒士がブツブツと何かを呟き始めた。

「……たい。あぁ…」

「…はい?」

「リオになら、隅々まで調査されたい‼」

 落ち着いた見た目とは裏腹に、当の本人はハアハアと荒く息を吐きながらリオに迫っていく。

 すると、リオが耐えられなくなったのか、自ら黒士に近づいていく。

「…黒士、あんまり調子に乗るなよ」

 その時のリオの顔は恐ろしいどころではなかった。

 赤い目は黒く鋭くなり、オーラが恐ろしさを醸し出していた。

「アァ…怒る顔も美しい……」

「リオ、こいつはどうにもならない。帰ろう」

「えぇ。もう相手することすら面倒になってきました」

 そう吐いて、帰ろうとしたリオの腕を引いて…。

「…ん⁉」

 リオが目を見開いた。

「……もうだめだ」

 黒士が、リオにキスをしている。

 唇が離れると、リオの顔が殺気を帯びている。

 まずい。

 レイスもそれを感じ取ったのか、リオの手を取った。

「面倒だから相手するな」

 黒士は、相変わらずリオの美しさを語っている。

「さぁ、帰ろう」

 そう言ったとき、後ろから声がした。

 マイルが目覚めてしまったのだ。

「逃がさないさ」

 マイルが魔法を放とうと伸ばした手を、黒士が封じた。

「黒士、離せ」

「私は、天空や魔界の争いに興味もなければ、加わりたいとも思わない。ただ、今は大切な人を守りたいだけだ」

 大切なもの…。

 黒士は、本当は戦いが嫌いなのかもしれない。

 さっき動きを封じられた時も、術を掛けようとしなかった。

 …なら、なぜ魔王の使いなどしているのだろうか。

「マイル、ちょっと眠っておいて」

 黒士がマイルに術を掛けた。

「…プログラムが操作されてる。恐らくは意識さえも」

「なあ…。なぜ、黒士は魔王の使いなんかしてるんだ」

「……なぜ」

 単純に考えて、意味もなく魔王の使いにはならない。

 戦いが嫌いな者が、魔王の使いにはならない。

 ほかに、何があるのだろうか。

「…場所を移動しよう。魔界は監視の目が多い」

「では、第4地区の鍵部屋じょうしつに移動しましょう。…あと、マイルのプログラム操作について調べないといけないですね。オリエラを呼びますか」

「だと思って先程からコンタクトを取ろうとしているんだが…接続できないんだ」



「……ぐっ」

「おいフィン!お前…」

「いいから、何も言わずにここから消えろ……」

「おい‼」

 閉じこもった部屋の中。

 ここは、黒い監獄。

「お前は何もしてないだろ!」

「…もういいんだ」

 明るい白は、闇に溶けて黒に染まっていく。

「今までありがとう」

 サヨナラだ。

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