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6.言い訳

6.言い訳


ちょっと、ちょっと、ちょおっと!

冗談じゃないわ、何が悲しくて想い人に『今から吐きます』っていう場面見せなきゃならないのよ!?

わたしはファドリケ皇子の姿を認めた途端に桶を押しやり、必死に身体を起こした。ボサボサの前髪を整え、ついでに寝間着の乱れも直し、何とか体裁を整えようとする。青白い顔はもうどうにもならないけど、せめて吐くところだけは見られたくない。

あーん、もうファドリケ皇子もどうして今このタイミングで部屋に入ってくるの!?そりゃ会いたいとは思っていたけど!


「まぁ、姫様ったら」


イザベルは仕方ないって顔で、わたしが手放した桶を持った。多分、いざとなったらすぐにわたしの顔面に差し出すつもりなんだと思う。


全身全霊で吐き気をこらえつつファドリケ皇子を見やると、皇子は従者と見られる少年を後ろに従えながら、ベッドのそばまで歩いてきた。


「医者が必要ないとはどのような意味ですか?」


皇子がベッドの脇まで近づくと、イザベルが質問した。


「僕がニーナ様の病を治すということだよ」

「えっ!」


思わず驚きの声を上げてしまった。さすがのイザベルも困惑気味である。


「それは……あの、今からということですか?」

「あぁ、君たちさえ構わなければね。」

「えっ!」


今すぐ治せるものなの?一体、どうやって……。


「ニーナ様、これから君に治癒魔術をかけます。痛くはないから安心して」

「魔術……」

「あの、すぐにジーニーを呼んで参りますので、もう暫くお待ちいただけますか?」


ちょっと、イザベルなんてこと言うのよ。治してもらえるなら一刻も早く治してもらいたいわ。吐き気だって我慢できるのにも限界っていうモノがあるのよ。


「ジーニーも医者ですから、治癒には並々ならぬ関心を持っていまして。魔術なんて、滅多に見られるものではありませんから」

「それはいいけど……。ニーナ様は?」


ファドリケ皇子が心配そうにわたしを見る。


「ニーナ様のご病気は今に始まったことではございませんので、あと何十分も我慢したところで何か変わりはしませんわ。」


全く持って失礼な侍女だわ。主人を何だと思っているのよ、もう。

彼女は、少々お待ちくださいませ、なんて言ってジーニーを呼びに行ってしまった。

桶はもう一人の侍女にバトンタッチだ。


ファドリケ皇子はため息と共に、ベッドの端に腰掛けた。そして身体を捻ると、腕をあげてわたしの頬へと手を伸ばした。


「調子はどうですか?」


はっきり言って、ものすごく悪い。吐き気が。

でも、恋する乙女的に、想い人に吐き気がどうこうとかあんまり言いたくはなかったから、大丈夫ですと返事をしようとしたの。

でも、返事をしようとファドリケ皇子の顔を見たら、何故だか嘘を吐こうとした気持ちがしゅるしゅるとしぼんでいってしまった。

だって、なんか、あんな顔されたら、余計なことなんて吹っ飛んでしまったんだもの。


「正直を申しますと、吐き気があります……」


うぅ、恥ずかしい。


「それはおつらいですね。少し試してみましょう」


何を?と問いかける間もなく、皇子は頬に当てていた手を、額に持っていった。


「気を楽にして。深呼吸をしてください」


わたしは言われたとおりに深く息を吸った。何をするのかしら。

不思議に思っていると、皇子がぶつぶつと小声でつぶやいた。

すると、まぁ、どういうことなの?吐き気がぐんと収まり始めたのよ!


「あの、ファドリケ様、これは」

「簡単に言うと、ニーナ様のマナを、循環させています」

「マナを循環?でも、わたし魔術は使えません。だからマナはないはずですわ」

「この世にある全ての物は、大小なりともマナをもっているんですよ。魔術が扱えるほどマナが多くないだけでね」

「そうなんですか」

「ニーナ様の体調の悪さは、旧い身体と、それを取り巻く新世界の環境にズレが生じていて、マナが上手く循環していないことが原因になっているのです」

「はぁ」

「治すことは難しいことではありません。ただ、それには魔宝石といわれる特別な石が必要になってきます。」

「貴重な物なんですか?」

「普通の宝石よりは価値が高いです。でも、見つけられないほどではない」


そこでファドリケ皇子の声音が不意に変わった。


「この二日間、ニーナ様のご病気を治すのに最適な石を選んでいました。そのせいでお会い出来なかったのです。聞けば、君は僕の部屋まで会いに来てくれたというのに」

「それは、あの……わたしが勝手に。迷惑かと思ったのですけど」

「迷惑?まさか。僕だってすごく会いたかったのに」

「え……!」


じゃあわたし、嫌われてなかったんだわ!

嬉しさにに頬を染めたわたしは、うっとりとファドリケ皇子を見つめた。

嫌われてなかったってことは、つまり好かれているってことよね?

ファドリケ皇子も、わたしの顔を覗き込むように顔を近づけてくる。


もしかして、これってなんだか、『良い雰囲気』っていうやつじゃ……――。


次の更新は11月26日の19時の予定です。

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