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5.一週間(前編)

5.一週間


それから二日間、わたしの頭の中はお祭り騒ぎだった。まぁ、エストレアの王様に会いに行ったり、ファドリケ皇子の住むお城に移動したり、婚約パーティーやらなんやらで、本当にお祭りだらけだったのは間違いないのだけど。


エストレアについて三日目、わたしはかつてないほどの元気を感じていた。


今までのわたしの『恋』への評価といったら、あんまりいいものじゃなかった。歴史の先生も、恋は時に人を愚かにするっておっしゃっていたし、文法の先生は『恋は盲目』という言葉を教えてくださったもの。

でも、わたしはその考えを改めたわ。

恋って素敵。物語の登場人物たちがこぞって恋に落ちるのも納得がいく。

皇子を一目見ただけで胸がいっぱいになっちゃうし、話しかけられたらもう幸せで元気いっぱいになっちゃう。

身体の具合の悪さなんて感じられなくなるくらいふわふわ出来るの。なんてすばらしいのかしら。

話は変わるけど、昼食のときに話しかけてくれたファドリケ皇子の瞳は相変わらず綺麗だったわ。


その翌日の四日目、わたしは不安を覚え始めた。

平熱体温が三十八度六分(つまり発熱してるってことよ)のわたしにとって、調子のいいときの体温は三十七度五分。そしてその温度は三日も保てば良いほうで、大抵は微熱がある。

そろそろ熱が出たり何かが起こってもいいはずだわ。

でも何も起こらない。身体は三十七度台をキープ、朝の診察でジーニーも少し驚いていたくらい。


「きっと姫様には、新大陸の空気が合っているのですわ」


夜のパーティーの準備をしながら、イザベルはそう言ったけれど、これは絶対に恋のおかげ。旧い血の流れるわたしが、新大陸と相性がいいわけがないもの。ファドリケ皇子の魅力的な毛並みの効果よ。

髪をとかしてくれているイザベルに、彼の毛並みについて話してみると、彼女は心底わからないという顔で返事をしてきた。


「あら、毛並みなら、皇子の隣の方のほうが上ですわ。彼、いかにも賢そうで見目麗しかったじゃありませんか」

「そうかしら。ファドリケ皇子の方が、かっこいいわ」

「あら、いくら姫様でもそこは譲れません」


まぁ彼女は鹿族だし、多少の美的センスが合わなくて当然かもしれないわね。

その考えをもう少し発展させて、ヒトの場合はどうなんだろうって考えていれば、この後に起きた事も、避けられていたかもしれないのに。

わたしってバカ、バカ。獅子族なのに馬鹿。


その後何が起こったかというと、その日の夜に催されたパーティーで、ファドリケ皇子を相手に毛並みがどうのこうのと言ってしまったのだ。


「あの、その、ファドリケ様の毛並み、とても美しいですね」


その時、ファドリケ皇子とわたしは、ダンス(そうダンス、舞踏ではなくて!)で身体をこれでもかというほど密着させた状態だった。頭上のずっと高いところでガラス製の照明器具が煌いていて、見たことのないような楽器が異国の音楽を奏でているこれ以上ないくらいにロマンチックな場面だった。

お互いに視線が合いそうで合わない。わたしはそれをちょっと、というか大分残念に思っていたのだけど、でも仮に合ったとしても恥ずかしくってすぐ視線を逸らせていたに違いないわ。結果オーライね。

まぁ、結局はその台詞で見詰め合うことになったのだけど。


「毛並み、ですか……?」


何を話せばいいのかわからなくて、緊張と沈黙に耐えられなかったわたしが言った言葉は、どうやら大失敗だったらしい。顔を上げてファドリケ皇子を見つめれば、その瞳には確かに戸惑いが浮かんでいた。


え、わたし、ものすごい勇気を出して褒め言葉を言ったのに。喜んでくれないの?


驚きが顔に出たのだろう、ファドリケ皇子はわたしの顔を見て、今度は焦りを浮かべた。


「いや、えっと、毛並みということは……」


そこでわたしははっとした。

もしかして、獣人族みたいな毛皮を持っていないヒト族にとって、毛並みがいいということは褒め言葉でもなんでもないのかもしれない。


それって、わたしが鳥人族に「そなたの骨は軽い」なんて言葉をもらったときみたいなものじゃないかしら……。そういえば、あの時も今のわたしたちみたいなやり取りをしたような気がする。

骨は重くて頑丈であるのに越したことはないと思っていたわたしにとって、軽い骨だとか言われて内心傷ついたのを覚えている。その後誤解が解けて、鳥人族の間では「骨が軽い」=「よく空を飛べるからとてもいい体質」ってことを知ったんだっけ。

間違いない、あの時と同じ状況だわ。


あぁっ、わたしったら、相手に少しでも気に入られようとして、全くとんちんかんなことをしてしまったのね!


「毛並みがいいということは、つまり――」

「なな、な、何でもありません!忘れてください……!!」


うぅ、大失敗だわ。わたしの発言によって、ファドリケ皇子との間には微妙な雰囲気が残ってしまい、それはパーティーが終わっても消えることはなかったのだった。


お久しぶりです。お待たせしてしまって申し訳ないです本当。

長くなってしまったので前編と後編に分けます。次回更新は23日の19時ごろを予定しています。

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