プロローグ
重いお話ばかり考えているので軽く読めるような感じにしたいです。見切り発車ですがよろしくお願いします。気が向けば更新っていう方向で…
プロローグ
小さい頃からわたしは身体があんまり強くない。
むしろ弱い。獣人族にあるまじきことだ。
それこそ、生まれたときに小さすぎて『ニーナ』、『小さい女の子』と名づけられたくらいだ。
丈夫な兄姉に比べてすこぶる弱い。
寒い日には風邪を引き、暑い日にはめまいを起こす。雨が降れば頭が痛くなり、雪が降れば震えて震えてベッドから出られなくなる。
年に数回は起きられないほど酷い病を患い、流行病にも乗り遅れるなとばかりに必ず罹る。
それでも運は強いようで、なんとか十六年間生きてこられたのだった。我ながらよくぞ生きたと言いたい。
しかし、この先何年生きられるのか。いつの日かぽっくりいってしまうに違いない。
自分でもそう思うのだから、周りはもっと心を痛めているに違いない。
案の定、そんなわたしを見かねたのか、モノリス王国の王様である父『獣王』レオナードは、娘のわたし、ニーナにあることを持ちかけたのだった。
「ニーナ、お隣のエストレア帝国の皇子さまから婚姻の話が来ているんだ。お受けしてみないかい?」
ずばり、結婚話だ。
「お父さま、わたしそんなことしたら死んでしまうわ……!!」
その日は寒くもなく暑くもなく、空には白い雲がうかんでいてたまに太陽を遮るくらいの、わたしにとって程よい気候だった。
わたしは玉座に座る父を見上げながら答えた。
父は『獣王』の名にふさわしく、それはそれはたくましい男だ。鍛え上げられた筋肉、黄金色のたてがみ、つり上がった黒い目、頭には獅子の耳を生やし、腰からは尾が伸びている。人間よりも毛深く、皮膚もずっと頑丈だ。下半身は人間よりは獅子に近い形をしている。
父は堂々たる獣人族の王様だ。
それに比べてわたしはというと、情けなるくらい小柄だった。背丈は腰掛けている父の胸まで。母も姉も父と比べたら小柄だが、わたしほどではない。黄金より色の薄い卵色の髪、丸い目。骨が細いせいで必要以上に華奢に見えるし、耳や尾は獅子というよりは猫のように弱弱しい。
しかし、いくら貧弱でも獣人族、脚は多少の差異はあれど父や母、その他一族と同じ形だ。自慢にもならない自慢だけど、これでも成長したほうなのだ。
人間の里に行ったらどういわれるかわからないが、丈夫な者ばかりのモノリスでのわたしは、吹けば本当に飛んでしまう獣姫さまと言われてる。
「いくらなんでも言いすぎではないか、ニーナ」
「いいえ、この住み慣れたモノリスでさえたまに死ぬかと思うもの。外国に嫁ぐなんてむり」
断固とした口調でわたしは言った。自分の命が掛かっているのだ、必死である。
「ニーナ、外国に行くのはそう悪いものでもないよ」
玉座の横で控えていた兄が言った。
「エストレアはモノリスより気候が安定しているんだ。新大陸だし、旧大陸を土台にしているモノリスよりずっと神々の力も安定しているからね。そうそう荒れるものじゃない」
むぅ、それは知らなかった。
「それにね、あちらには腕のいい術師様がたくさんいらっしゃるから、もしニーナが風邪を引いてもすぐに治してもらえるよ」
獣人族には、魔術や治術を操ることができる術師が少ない。旧い世界の生き残りゆえ、新しく流れているマナを感じることが難しいのだ。マナを使わなければ術は操れない。ニーナの身体が弱いのも、そもそもは旧い血が新しい環境についていっていないせいでもあるのだ。
「術師様に身体を診てもらって、新しい世界に馴染めるようにしてもらったらいい」
兄の言葉に父が続く。
「どうだ、ニーナ。行く気にはならないかい?」
わたしはその問いにうつむいてしまった。
身体が弱いなりにも、わたしは父の娘としてこの国に何が出来るか考えてきた。身体が丈夫でないなら賢くあろうとした。それでも梟や狐の一族と比べると随分劣るのだ。
このまま何も出来ないで国にいるよりも、栄えている帝国に嫁いで、国際的な繋がりを作ったほうが良いのかもしれない。わたしの身体と頭で、どれほど立ち回れるのか疑問に思うけど。
「わかりました、そのお話お受けします」
どうせ幸先見えない人生だし。どうにでもなっちゃえ。
あぁ、でも旦那さまになる人はかっこいい人がいいなぁ。
ちょっと世界の説明を…
旧大陸と新大陸
流星の衝突の前の時代と後の時代。衝突により裂けた大地を塞ぐため、旧大陸の神々は地に還った。神々の力で大地は裂け目は閉じ、新しく姿を変え、さらに神々も蘇った。滅んでしまった旧大陸の種族もある。