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7.治療

7.治療


「いやぁ、遅くなってすみません!!魔法はまだですよね!?」


バタバタと騒がしい音と共にジーニーの声が聞こえた途端、わたしたちはぱっと離れた。ほんの一瞬前まで見つめていた顔が、もう恥ずかしくて見れなくなっちゃった。


「え、えぇ、まだですよ、ジーニー殿」


皇子も心なしか動揺した声を出している気がする。ひょっとすると、顔も赤らめちゃったりしてるのかもしれないわ!あーん、見たいけど恥ずかしくて見れない!


「あら、ニーナ様。顔色が幾分かよくなってますわね」

「え?そそそそ、そうかしら。そ、そういえば、ファドリケ様が、先ほどマナを循環?してくださって」

「まなをじゅんかん??そんな治療法、聞いたことないなぁ。皇子、今やってみていただけますか?」


ジーニーは治療法に興味津々らしく、ファドリケ皇子に目をらんらんと輝かせて詰め寄っている。詰め寄られた彼は、圧倒されたように、でもしっかりと言葉を口にした。


「いいえ、ジーニー殿が到着されたので、本格的な術を掛けましょう。カラス、それをこっちに」


ファドリケ皇子とともに部屋に入ってきていた従者は、皇子の呼びかけに答えてベッドまで近づいてきた。少年は両手に大事そうに持っていた布の塊を、これまた大事そうに皇子に差し出した。

皇子はその布の重なりを丁寧に解いていく。すると、中から深緑に煌く親指の爪ほどの大きさの宝石が現れた。


「これが魔宝石です」


ファドリケ皇子はそういいながら、繊細な手つきで宝石を取り上げた。


「今からニーナ様に魔術をかけます。とても難しいものなので、決して邪魔をしないでください。悪いことは何も起こりませんから」


一同が見守る中、皇子は呪文を唱え始めた。さっきみたいな、口の中でつぶやくようなものじゃなくて、もっとはっきりと唱えている。

彼はわたしの心臓の上に宝石を持った右手を押し付けて、さらに力強く言葉を発した。

胸元から暖かな熱が伝わる。同時に、宝石から光が溢れた。深緑、青、幾筋かの黄色と、さまざまな諧調で光は部屋中を踊る。やがて目も開けていられないくらい眩くなり、わたしはとうとう目を閉じた。

そして、皇子は呪文を唱え終わった。


「……」


瞼の向こう側で、光が収まったのがわかった。そろり、と目を開けると、驚いた表情の皆が見えた。


「気分はいかがですか、ニーナ様」

「き、気分……??」


聞かれて、わたしは自分の体を見下ろした。

きぶん……きぶん……。

え、わたし、今どんな気分なの!?

いくら探しても不調のかけらもない。吐き気も頭痛も腹痛も、のどの痛み、目の痒み、指先の冷え、関節の痛みも、何も感じない。

そう、強いて言えばこれは。


「け、健康ってこういう気分なのかしら……??」


戸惑いを隠せないわたしに、ファドリケ皇子がにっこりと微笑んだ。


「魔術は正常にかかったみたいですね。よかった」


これが健康かぁ、身体の調子がすこぶる良いな、なんて考えてたら、イザベルが泣き崩れた。

慌ててベッドから降り、イザベルに駆け寄ると、それを見て彼女はさらにむせび泣いた。


「あぁ……!!ニーナ様が……!!神よ、感謝いたします!!」

「ちょっと、イザベルったら大げさよ。何も変わっちゃいないじゃないの」

「何をおっしゃいますか!今までどんなに顔色がよくても病人とわかるものだったのに、それが今では薔薇色の頬。お母様にそっくりですわ。それに、それに」

「ニーナ様、今少し走りましたよね」


イザベルの言葉をついで、ジーニーが言った。

言われてみれば、そうね。走ったわ。


「すごい!!これが魔術!!無限大の可能性を秘めている!!ぜひ僕にも教えてもらいたい!!」


それからはジーニーが興奮して大変だったわ。専門の先生をつけてあげるとか何とか言って落ち着かせ、別の部屋に引っ張っていった後、やっぱりわたしは今日一日寝ていなさいとイザベルにベッドに押し込まれてしまった。


「でも、わたしはもうなんともないのに」

「いや、寝ていてください。きっと気づかないけれど、確かにニーナ様は疲れています。魔術はそういうものですからね」

「まぁ、そうなの」

「さぁ、みなさん、部屋から出て行ってくださいまし。お静かにお願いしますわ」


イザベルに促されて、部屋からみんなが出て行く。最後にファドリケ皇子が立ち上がり、ベッドを離れた。しかし、彼は思い出したように振り替えると、こう言った。


「あ、そうそう。ずっと言おうと思っていたんだ」



「君の毛並み、最高に魅力的だと思うよ。」



あぁ、彼ってなんてチャーミングなのかしら!わたしはもう一度彼に恋をした。



  +  +  +



一週間後、エストレアの首都では、ファドリケ皇子の盛大な結婚式が行われた。

お嫁さんは皇子に褒められた黄金の毛皮をなびかせ、それはそれは幸せそうに笑っていたのだそうだ。


種族の違う二人ではあったけれど、生涯仲良く、ずっと幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。なぁんちゃってね!

大変お待たせしてしまいました、やっと完結です。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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