女心、男心。
昔、別れた女と久しぶりに会った。
顔も名も変えていたとは…。
初めて会った時、声を聞いた瞬間、整形する前の顔を思い浮かべたが全く違う顔だった。
元々、綺麗な奴だった。だが、整形をして更に綺麗になった。
「ねぇ、私達ってどうして結婚したんだろう」
それは…と言いかけたが、ふと俺も思った。
好きになったから?好きだと言われたから?いい女を自分のものにしたかったから?
どれも違う気がした。
「不思議よね。まぁ、どうでもいいわね」
お互い、答えは出なかった。
「…怪我って何でしたんだ?」
「交通事故。あなたと別れてすぐだから、罰が当たったんだと思う」
頬を撫でてすぐに真面目な顔をした。
一瞬だけドキリとしたが、それもすぐに消えた。
「さてと、私の家はもうすぐだから。バイバイ」
「送ってく」
「いいわよ。それより、あげたもの落としちゃダメだからね?」
店を出た時にもらった『良いもの』とは、空の写真。
笑顔の空、泣いてる空、怒ってる空…どれも俺にとっては金よりも素晴らしいもの。
胸ポケットにしっかりと入っているが、空にバレれば大変なことになる。
「美樹」
「…また、空と一緒に店に来てね?じゃあ」
ゆっくりと歩き出して片手をあげて去っていく。
別れたあの日のようで、少し懐かしかった。
涙も見せず、ただ何もかも面倒という奴だったのに、今はどんなものにもぶつかっていく、強い女に見えた。
「また…な」
どうしてあの女と結婚したのか。
それはきっと、寂しかったからだと気付く。
酒や金に溺れて疲れ果ててる時、優しくされて女に溺れて、幸せを掴んだ気になった。
それをあいつに言う気はない。
あいつもそれを聞きたくはないだろう。
携帯を取り出して電話を掛ける。
「もしもし?」
ストーカー、変態、馬鹿だなんだと言われても空が好きだ。
『何時だと思ってんですか、馬鹿なんですか』
起こされてイラついているんだろうが、今すぐ言いたいことがある。
「好きだ」
『チッ』
ブツリと切られてしまった電話。
…こんな女を俺は幸せにしたいと思う。