彼女との初…。
「くそっ」
何度も何度も電話を掛けたが繋がらない。
番号を間違えているのかと確認してまた掛ける。
やはり繋がらない、もしかして帰る途中で何かあったのか?
…いや、さっきのことで怒っているのか。
「どうする、どうする…」
せっかくデートらしいことができたというのに、キャバクラやら何やらで会った女達に邪魔をされ、夢のような時間を過ごせたというのに。
靴を買ったらもっと色々な場所へ連れていって喜んでもらいたかった。
飯を食べてた時の空の嬉しそうな顔を見て、本当に堅気になろうかとも思えた。
そしたら空は少しでもこちらを見てくれるんじゃないか、と。
喧嘩と酒と女が揃ったら幸せだと昔はよく言ったもんだ。
しかし、それは違うと気付いた時、俺には何も残ってなかった。
あの雨の日。
空と出会わなかったら。
空が傘をくれなかったら。
きっと、死んでた。
「たっちばなの、ばっかやろー!」
…今、とてもいいところで俺の悪口が聞こえなかったか?
「暇潰しに口説いてんじゃねーよっっうの!まぁ、私は解放されたけどね!」
「まったく、勝手にお酒飲んじゃって…」
電柱をペタペタと触りながら叫ぶ空。
かなり酔っぱらっているようで、顔を赤くしていつもの冷静さがなくなっていた。
「そ、空」
恐る恐る話しかけてみると、トロンとしていた目がいきなりキッと鋭くなった。
ゾクリとした、その目に。
「またストーカーですか、女たらし」
やっぱり怒っていたか。
近付くと猫のように威嚇をしてフラフラしながらどこかへ行こうとする。
「待て。今日は悪かった」
どんな辛辣な言葉を吐かれても、殴られてもいい。
それは空だから、惚れているからこそ許せるもの。
空以外にやられれば、再起不能にさせているところ。
「空?」
いきなり座り込んで震えていた。
泣いているのか?
不安と後悔の中に「可愛いとこもあるな」という思いが強く出て、抱きしめてやろうと肩に手をかけた。
「吐くぅ…」
お約束の言葉が出てきた。
「だから飲み過ぎって言ったでしょ!ほら、袋あるからっ。橘さん、あっち向いて!」
「あっ、ああ!」
空の背中を擦りながら俺の背中を押した美和という女。
この女がいなかったら確実に俺は空の(自主規制)を見ていただろう。
いや、見たところで醒めるわけじゃないんだが。
「うぅ…気持ち悪い…」
「馬鹿ね。ほら、水」
未だ振り向けずに固まっていると、いきなり腕を引っ張られた。
「さて、ここからがあなたの仕事よ。この子、家へ届けてやってね」
空を押し付けられて動揺している俺にウィンクをして帰っていく女。
しがみついてくる空をどうにか背負って歩き出した。
「空、大丈夫か?」
「気持ち…悪い」
「吐くなよ…おい!吐くのか!?吐くのか!?」
「うっ」
「ま、待て待て待てぇぇぇぇ!!」
口を手で押さえる空を急いで知人の病院へと連れて行き、朝になるまで空の看病をすることになった。
初めてのデート、初めての看病。
どれもいい思い出…とは言えないが、空の寝顔を見れたことだ、良しとしよう。
良し…としなければならない。