彼は意外とモテるのです。
翌日、学校が終わり、いつものように門を出るとやっぱり橘がいた。
大きな花束を抱えて駆け寄ってきた。
それがまるで犬のようで少しだけ笑えた。
飼い主を待っていた犬のようだ。
「今日もお疲れ様でーす」
「馬鹿にしてるだろ」
「まさか。じゃ、さよなら」
急いで通り過ぎようとしたが、腕を掴まれてあっという間に車の中へ押し込まれた。
抵抗したところで腕は掴まれているし、強面の男が3人も乗っているから出たくても出れない。
最後の抵抗として、橘の足を力の限り踏みつける。
「何してんだ」
「足を踏んでるんですけど?何か?」
「本当に変わった女だ、お前は」
「女が皆、あなたに縋りつくと思わないでください」
はぁ、面倒なことに巻き込まれたな。
今日は買い物したかったのになぁ。
新作のパンプス見に行ったりしたかったのに。
「これから飯でも食いに行くぞ、レストラ…」
「和食食べたい」
「…」
「和食じゃないなら帰る」
わがままな女で面倒だと思わせる為に言ってみた。
怒らせて『帰れ』と言ってくれるのを待とう。
心の中でニヤニヤしていると、橘が運転手に向かって言った。
「和食のあるとこに行け」
崩された計画をここで諦めるわけにもいかない。
今日は早く帰りたいんだ!
私は更に計画を立てて、わがままを言ったが橘は怒ることもなく頷いていた。
疲れ果てた私は引きずられながら店に入り、ご飯を食べることになってしまった。
「美味かったか?」
「…まぁ」
「そうか。それならいいんだ」
「じゃ、これで帰りますね」
「まだいいだろ」
「寄るところあるから」
「どこにだ」
まさかとは思うけど、一緒に行こうとか…?
あ、でも買ってもらえるかもしれないしなぁ。
いや、ダメ。自分で買うんだ。
「リズっていう靴屋さん…」
「行くぞ」
すぐにリズに向かってくれることになって、私はワクワクしていた。
店に着くとお目当てのパンプスが目に入り、駆け寄った。
「よかったぁ。あ、これください」
女性店員に声をかけて財布を取り出す。
しかし、店員は私なんかを見ないで橘のほうへと行ってしまった。
「春人さん、お久しぶり!」
「ん、あぁ。久しぶり」
どうやらふたりは知り合いのようで、しばらく話をしていた。
見ていて分かったことは、店員は橘のことが好きだということ。橘は誰だこいつ的な目で見ていること。
「空、決まったか?」
「決まったけど…自分で買うから財布出さないで」
分厚い財布を取り出して買ってやるというようにこちらに向かってきた。
私は急いでいらない!と拒否をした。
パンプスを買って帰ろうとすると、何故か橘の周りには女だらけ。
「え?」
「お前ら、邪魔だ」
鬱陶しそうに女達をどけて私の腕を掴む。
その瞬間、殺気と嫉妬の視線を全身に浴びることになった。
分かってる、皆の言いたいことは。
今の私は地味女。だっさい女が何故、橘に腕を掴まれているのか疑問に思っているのだろう。
私だって好きで地味になってるわけじゃない。
いい加減、耐えられなくなって笑顔で橘に言った。
「よかったですねぇ、こんな綺麗な人達に囲まれて。羨ましいわー。それじゃ、さよなら」
うしろで何やら騒がしいが振り返らずにまっすぐ家へと向かった。
女達に腕や脚を掴まれて動けずに私の名を呼び続ける。
どうしてあんなにモテてるのに彼は私を好きだというのだろう。
こんな地味な女を何故?
明日会ったらプロレス技をかけてやろう。
今日のあの女達の馬鹿にしたような笑みと目に腹立ったから八つ当たりしてやる。
その日の夜、彼からの着信が20件超えたところで電源を切った。