彼と出会った日。
2週間前。
小さくて古いカフェでバイトをしていた時だった。
その日は雨が降っていて、お客も少なくて暇で何もすることがなかった。
それでも仕事中なので休んでいられず、買い物に出かけることにした。
赤い水玉模様の傘を差して外へ出た瞬間、バシャリと何かが水溜りに落ちたような音がした。
音のするほうを見てみると、男がこの雨の中、突っ立っていた。
水溜りを見てみると携帯を落としたようだった。
何かが変。
男が異様なオーラを放っていたせいか、誰も近づかなかった。
なのに、私は近づいた。
『風邪引きますよ』
男は振り向いて私を睨む。
使っていた傘を男に渡す。
『傘貸しますから早くお家に帰って温まったほうがいいですよ』
それだけ言って私はカフェに戻っていった。
ただそれだけだったんだ。
傘なんてどうせ返ってこないと思ってた。
男はどうせ私の顔なんて憶えてないと思ってた。
なのに。
男はカフェでバイト中の私のところへ来た。
何故か、顔を赤らめながら。
花束とあの時の傘を持って私に言った。
『俺の女になれ』
あの日から男の告白を受け続けることになったのである。
私はとんでもない男に好かれてしまったんだと気付き、あの日の私をぶん殴りたくなった。
彼曰く『一目惚れ』だそう。