彼は極道です。
「俺の女になれ」
今時、こんなセリフで告ってくる奴って少ないと思う。
そして、上から目線ってどういうこと?
豪華な花束を押し付けてくるのも止めてほしいんですけどね。
「嫌」
精一杯の笑顔で拒否をすると、男は持っていた花束を地面に叩きつけて私を睨んだ。
そんなんでビビるわけでもないので、睨み返すことにした。
大体、断られてるの何度目だと思ってんの?
もう15回目なんですけど?
いい加減、諦めたらどうなんですかねぇ。
「何でだ!俺はお前のことをっ」
「ヤクザの女房にゃなりたかないって言ってんですよ」
いい加減にしてほしいんですよ、こっちは。
毎度、学校の校門でこんな告白されてたらね…。
『姐さんがまたプロポーズされてるぞ!』
『関わっちゃダメだよっ』
少し離れたところからコソコソと話声が聞こえる。
そう、こいつが現れてから私の積み重ねてきた『優しくて大人しい』イメージが崩されてしまった。
学校というものは本当に噂が広まりやすい。
あることないこと混じって伝わってしまう為、良いことなんてひとつもない。
噂を消すにもひとりではどうにもできないし、この男が来なくなるまでは無理だろう。
「か、堅気になりゃあ付き合ってくれんのか?」
「絶対嫌だって顔して言わなくてもいいですよ」
堅気になんかなれないって顔に書いてありますよ。
堅気になろうがヤクザであろうが、私は好きにならない。
常識知らずの馬鹿な男を誰が好きになるもんですか。
叩きつけられた花束を拾い集めて男に渡した。
「これ持ってお帰りください」
もうこれのセリフも何度目だろうか。
男もいつも通り、悔しそうにしながら帰っていく。
あの花束、本当なら欲しいところだけれど、貰ったら勘違いされそうだからいつも突き返す。
心の中では「花、ごめんね」と呟いているけれど、あの男は心でも読めるのだろうか。
振り返って花束を地面に優しく置いていった。
橘春人、26歳。
職業、極道の組長。
普通なら絶対関わることのない人。
関わりたくない人と言ってもいい。
それなのに、私は好かれてしまったんだ。
原因はただひとつ。
遡ること2週間前。
彼と私が出会ったんだ。