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最低な男

掲載日:2026/07/08

“最低の人間”という定義は人によっては違います。人によっては自分が直接、関わった人間限定な人もいれば、漫画や小説の登場人物も含める人もいます。

これは1人の少年から“最低の人間”だというレッテルを貼られた一人の男の話です。

【最低な男】





「ふざけんな!お前に誰かを見下す資格があると思ってんのか!?」


男子高校生『大谷明夫』は昼休みの教室でクラスメイトである男子生徒『安藤守』へと大声で怒鳴っていた。クラスメイト達は大人しい性格で何時も教室の隅で似た様な仲間と一緒に駄弁っている陰キャが陽キャへ向かっている姿に驚いていた。大谷は東海地方に存在している海道市内の公立高校に通っている男子高校生である。外見は小太りの体型をした少年である。中学校までは市内一の私立学園に通っていたが、家庭環境の悪化で公立高校へと進学したという経歴の持ち主である。


「なっ……何だよ!?」


安藤は如何にも陰キャなオタクという感じの大谷に怒鳴られた事で面食らっている。安藤は身長176cm程のそこそこ整った顔立ちで痩せた体型の少年である。ノリの良い性格のお調子者で少し言動に配慮が無い事を除いたら普通の男子高校生である。いい意味でも悪い意味でもあるが……きっかけは些細な事である。クラスメイトの少し暗い性格で冴えない外見をした女子生徒を笑ったら……聞き咎めた大谷が怒鳴り付けて来たのである。


「お前みたいな……虐めていた相手に返り討ちに遭って“海道落ち”した最低人間に誰かを見下す資格なんてねぇ!って言ってんだよぉ!!」

「!?」


“海道落ち”という単語でクラスメイト達は少し興味を惹いた様な感じで大谷達へと視線を向けた。“海道落ち”とは市内の学生達に広まっている俗語であり、市内一の偏差値と様々な施設で豊富な私立学園『海道学園』への公立学校に通う生徒達の嫉妬心から生まれた言葉である。大谷みたいに経済状況の悪化で公立学校へと進学するならともかく、成績の悪化を始めとした問題を起こして海道学園から市内の公立学校へと移った学生を揶揄する為に生まれた言葉である。


「虐めていた相手から返り討ちに遭った?安藤がか?」

「うわぁ……本当の事なら幻滅だわ?」

「あぁ……ただ単に“海道落ち”するならともかくならな」


安藤は大谷の言葉から誰にも話していない筈の小学校時代の事を眼前の陰キャが知っている事を悟った。


「お前……何で?」

「俺も小学生の時は海道学園にいたんだよ!小学2年生の時になぁ!!」

「!?」


大谷はそう叫ぶと……大声で眼前の“最低人間”が“海道落ち”した出来事を話し始めたのである。話は彼らが小学2年生の頃、地元のスーパーに彼等のクラスメイトである少年が第二子の出産を控えた母親と買い物に来た所から始まった。妊婦である女性が息子と一緒に買物をしていると……女性の膨らんだお腹を見た彼等と同い年の少年が買い物カートを暴走させて突っ込んで来たのだった。


『ドッカン!!』

『きゃぁぁあああ!!』

『お母さん!?』


凄まじい勢いで突っ込んで来た買物カートは妊婦のお腹へと直撃してしまい……女性は激痛で口から泡を吐いて倒れてしまったのであった。呆然としている女性の息子と周囲の人々……慌てて駆け寄って来た買物カートをぶつけた少年の母親と辺りは騒然となったのだった。そして、女性はお腹にいた子供と一緒に死亡したのだった。そして、母親を殺されてしまった安藤は他の友達数人と一緒に眼前でクラスメイトである少年を揶揄ったのである……幼心に傍目で見ていた大谷少年でも理解出来ない行為であった。そんな大谷少年が見ている前で安藤達は殺されてしまった女性やお腹にいた少年の妹を悪く言われた事で“少年”の感情は爆発したのであった。少年は近くに在った椅子を手に取ると安藤の頭に思い切り振り下したのである。


『うぎゃぁあ!?』

『うおぉぉぉおおお!!』


周囲にいた安藤の友達が取り押さえようとする中で“少年”は泣きながら椅子を振り下ろしていた……傍目で見ていた大谷少年も怖かったが、それ以上に“少年”への同情心の方が強かった。それから……“少年”は変わったのだった。海道市には世界的に有名な空手団体『天導流空手』の本部が存在している。其処に入門して空手を習い始めたのだった。やり場の無い感情を捌け口にするかの様に空手の練習に打ち込む少年は狂気染みた感情を大谷少年も感じ取った。


そして、安藤達は“少年”の怒りの捌け口へとされたのであった。“少年”の母親を死なせた糞ガキは人伝に聞いた話では……海道市にはいないみたいなので糞ガキに顔立ちが似ている安藤が捌け口へとされたのだった。最初は数で優る安藤達が優位であったが……何時しか“少年”の方が安藤達を圧倒する様になり、安藤達も“少年”の激しい憎しみと怒りを畏れる様になって友人達は“少年”に謝罪した後、安藤から離れる様になっていった。何時しか、噂を聞き付けた同級生達も“正義の味方”気取りで安藤を弄る様になっていった。大谷を始めとしたクラスメイト達は……変貌した“少年”を畏れていても同情もしていた事もあり、安藤の馬鹿さ加減を噂として流していたのである。


「最低だなっ!!何でっ……殺されちゃったのが悪いんだよぉ!?信じらんねぇ!!」

「むっ……昔の話だろ?俺だってっ……アイツには散々暴力を振るわれたんだぞ!!」

「うるせぇ!お前が悪いんだろ!?子供の頃の俺だってっ……お前達の方がおかしいって解るんだぞ!!」

「!?……ガキだったんだよ!?子供だったら……間違いくらいっ……!?」

「うるせぇ!!ガキだからって皆が皆っ……あんな事をするかよっ!?」


大谷明夫の怒号が教室中に響き渡る中、突然、低い唸り声のようなものが耳に入った。視線を向けると——厳つい顔つきの大柄な男子生徒が静かに席から立ち上がるところだった。鬼山雄三である。その巨体と鋭い眼光は、普段からクラス内で恐れられている「不良」の象徴だった。


「……うるせぇな」


鬼山の声は低く重く、教室全体が一瞬で静まり返った。


「ガキだったから何だ? 殺された人達を見て嘲笑うような奴が、今さら被害者ヅラか?」


安藤守の顔色が一気に青ざめた。予想外の援護射撃が、しかも、クラス最凶と恐れられる鬼山から飛び出してきたのだ。鬼山は厳つい顔立ちと大柄な身体をしており、治安の悪い地区で喧嘩をするのが趣味な武闘派の不良である。


「鬼山……!? お前まで何を言うんだよ!? 別に俺が殺したわけじゃ……!」


「お前は……目の前で家族を亡くした奴の心を殺したんだよ」


鬼山はゆっくりと机の間を縫って歩き出し、その威圧感にクラスメイトたちが自然と道を開ける。


「お前がガキだったから許されるかどうか決めるのは——周りの人間だ。少なくともソイツの母親を殺したクソガキとそっくりなお前を、誰が味方したいと思うよ?」


その瞬間——窓際にいた一人の男子生徒がふいに小さく頷いた。少年の名前は『諌山賢』というジャーナリスト志望の男子高校生である。


「その通りだな……俺も大谷みたいに何を言っていいのか判らないだろうけど、お前みたいな事はしないよ」


「俺も……小学2年生でも…そんな事はしないわ」

「私も……子供だった事と以前に頭がおかしいんじゃない?」

「あぁ……殴られても仕方が無いだろ?それで相手がグレてもおかしくねぇよ」

「そりゃあ、暴力はいけねぇけどよぉ……俺でも手が出るかも知れねぇよ」

「うん……最低だよ」


そして、続けて別の生徒が、また別の生徒が……まるで雪崩のように視線が集まり、無言の圧力が安藤に集中していく。


「……ちがう……俺は……」


安藤が狼狽し、周囲を見回す。しかし、彼を囲んでいたはずの友人たちの表情はどこか曖昧で、すぐに逸らされた。誰も庇おうとはしない。コイツみたいなお調子者と一緒にいる様な連中は学校生活を快適に過ごすのが目的で集まっているのである。不都合になったら、こうするのが明白である。何故なら、安藤自身もこういう人間なのだから……


「その話……知ってる」

「えっ……椎名さん?」


穏やかながらも確固とした意志が籠められた声が教室に響いた。クラス委員長を務める美少女、椎名菜月である。安藤が密かに想いを寄せていた清楚な存在が、まるで断罪するように正面から見据えていた。


「……えっ……椎名さん?」


安藤が狼狽しながら呟く。片想いしていた相手からの初めての否定的な言葉がこれほど残酷なものだとは想像できなかった。


「大谷君……それって9年前の中区にあるユークマートで起きた事件だよね?」

「えっ……う、うん!」


クラスのマドンナ的な女子生徒に話しかけられてキョどってしまる大谷を他所に椎名は淡々と語り始める。その瞳には怒りよりも深い悲しみが宿っているように見えた。


「私のお父さんは警察官で……その事件の責任者だったんです」


教室の空気が凍りつく。大谷も意外な情報に目を見開いた。


「その事件から少し経った頃……お父さんと歩いていたら知らない男の子が現れて…お父さんに大きな石を投げて来た事があるんです」

「えっ……それって!?」

「多分、大谷君の話に出て来る……お母さんとお腹にいた赤ちゃんを亡くした人だと思う」


それから、椎名は淡々と話し始める。事件の担当となった彼女の父親は母親を亡くした娘と同じ年頃の少年に忘れる事や相手を赦す事を促したという……少年に過去を引き摺らずに前を向いて生きて欲しいという気持ちを籠めて生きる事を説いたのであった。だけど、安藤が“少年”の傷跡を抉る様な真似をした事で椎名の父親が言った事は全てが無駄になってしまったのである。その結果、“少年”は世間を信じない様になり、椎名の父親も偽善者呼ばわりされて軽蔑される事となった。


「お父さん……向こうの親御さんの話を聞いてから彼の為に心を痛めてたわ」

「そうか……安藤のとばっちりを受けたって事か?」

「その通りだね」

「!?ふっ……ふざけるな!そんな事まで俺の所為にされて堪るか!!」

「確かに……椎名さんの父親に石を投げたのは彼の責任だけど……彼の心を追い込んだのはお前じゃないか!?」

「マジで最悪だな……人一人の心をぶっ殺して、自分には何も責任はございません♪ってか!!」

「お前は彼からしたら……共犯みたいなモンなんだよ!この人殺しがぁ!!」


大谷と鬼山の怒声が雷鳴のように教室内に轟いた。特に鬼山の低く唸るような恫喝には物理的な圧力があり、安藤守の膝が震え出す。これまで周囲との和を保ってきた陽気な仮面が剥がれ落ち、目に涙が浮かぶ。コイツは“少年”に罪悪感を覚えてはいなかったが……“少年”から受けた狂気的な暴力には強いPTSDを負っていたのである。大谷の言葉と自分を痛い思いをさせた“少年”と同じ強い暴力の臭いを感じさせる鬼山の圧力に恐怖が蘇って来たのだった。


「違う……違うんだ……子供の言う事じゃないか?」


弱々しい抗弁を漏らしながら、安藤は踵を返して教室から逃げ出した。扉を叩きつけるように閉める音が廊下に虚しく響いた。後に残されたのは冷たい沈黙と、彼を嘲笑うかのようなクラスメイト達の冷ややかな視線だけだった。





・・・・・

・・・・

・・・

・・





翌朝。登校した安藤を迎えたのは、昨日とは全く異なる景色だった。


「お……おはよう」


無理に作った笑顔で同級生たちに挨拶するが──誰も反応しない。それどころか目を合わせようともせず、まるでそこに透明人間がいるかのように無視し続ける。かつてグループの一員だった仲間さえも、露骨に距離を取りながら教室の片隅でヒソヒソと談笑している。


(なんでだよ……なんでだよ……)


心臓が早鐘のように脈打つ。理由は一つしかない。昨夜遅くに更新された匿名投稿サイトの記事だ。<【速報】県立○○高2年◯組安藤守くんの過去……>というタイトルで、小学生時代の過ちが詳細に綴られていた。「妊婦に故意にカートをぶつけさせた男達」「遺族への暴言」という言葉が赤文字で強調されている。コメント欄には〈クズ〉〈性根腐ってんな〉〈社会復帰不可〉など無慈悲な書き込みが並び、画像付きの証言まで添えられている。


(こんなの捏造だ……デマだ……なのに誰も信じてくれない)


焦燥と恐怖が喉を塞ぐ。次の授業開始のチャイムが鳴り響く。座席に向かう途中、「すみません……」と横に立つ女生徒に詫びるも──彼女は眉をひそめ、「近寄らないでください」と小さな声で拒絶した。





放課後の校庭。サッカー部のパス回しの球が不意に跳ね上がり、壁際で蹲る安藤の足元へ転がってきた。拾って渡そうと立ち上がる──が。


「触んな!」


ゴールキーパー服を着た三年の主将が憤然とボールを奪い返し、遠くへ蹴り飛ばした。周囲の部員たちも冷笑混じりに見下す。


「お前みたいな馬鹿と同じ空気吸ってるだけで不愉快なんだよ」


後輩を叱ることなど稀な温和な先輩である。その豹変ぶりに愕然とする安藤。ボールを追いかける足音とともに去っていく背中を見送りながら、無力感が胸を裂いた。





・・・・・

・・・・

・・・

・・




深夜、自室のベッドで震えながらスマートフォンを見つめる安藤。通知欄には未読のメッセージが数十件溜まっていた。開封すれば罵詈雑言の嵐──それはSNS上の同世代だけでなく、かつて遊びに行った飲食店の店主やゲームセンターのスタッフまでが参加したものだった。


《馬鹿が移る♪》

《どうしようもない馬鹿だな♪》

《恥ずかしいわ……人間のクズだわ!!》

《三つ子の魂百までだな……碌な大人にならないぜ!絶対にな!!》

《迷惑系YouTuberになりそう♪》


(そんなに悪い事をしたのか?俺……暴力なんて振るってのに……そりゃあ、馬鹿だったよ……今思い出しても…恥ずかしいよ!)


それから……安藤守という馬鹿はまともな生徒からは相手をされずに……子供時代の自分と似た様な人間と一緒にいる様になった。安藤は気付かなかったが……常識的な考え方をした人間が奴の顔を見ると気分を悪そうな顔をしながら遠ざかって行くのである。校内の一部から白い眼で見られながら安藤は深海魚みたいに学校生活を過ごしたのだった。





・・・・・

・・・・

・・・

・・




街の雑踏が夕暮れに染まる頃。安藤守は市内の中小企業で営業事務をこなしていた。かつての陽気な笑顔は陰鬱な表情に変わり、同僚達は彼を腫れ物のように扱う。高校以降、安藤の評判は「最低な過去を持つ男」として定着していた。就職活動時は面接で必ず過去を掘り返され、“反省した”といった失敗で得た教訓を話す事で......やっとの事で掴んだ今の職場ですら「問題児」として敬遠されている。


「なぁ、安藤」


昼休憩中のオフィスフロアで、唯一会話らしい会話を交わす同僚がスマートフォンを掲げて近づいてきた。彼は安藤と同じく営業補助を担当する男であり、名前は河合である。30代前半の妻子持ちである。男は軽蔑を籠めた表情を浮かべている。


「これ……お前だろ?」


河合の画面に映るのは匿名SNS「MyTweet」のポストだった。


《【緊急公開】若手演技派俳優・飛騨影児の知られざる原点》

《母親を病院搬送中に死亡》

《妊娠中の妹が腹の中で……》

《搬送事故を起こした子供A君は自殺している》

《事故現場を目撃した飛騨氏に暴言を吐いた同級生Bグループ(計4名)を本邦初公開》

《拡散希望:#絶対に許されぬ過去》


河合の指がスクロールすると、SNS特有の拡散煽り文の下に4枚の写真が表示されており、安藤を始めとした当時の馬鹿数名の個人情報が記載されており、何処で撮影したのか……現在の写真まで記載されていた。記事によると……今度公開される有名な監督が手掛けた映画に主演する若手俳優の過去話が記載されている。彼の写真とプロフィールを見た安藤はギョッとした……アイツだった……馬鹿な安藤達が怒らせてしまった事で“鬼”にしてしまった“少年”であった。


「もしも……お前らが人気俳優になった彼の“幼い頃の友達”ヅラしたら……この記事を突き付けてやれ!…だとよ?」

「……」

「お前らの顔……拡散されてるぜ?最悪……解雇されるかも知れないな?」


“最低な人間だとよ?”と軽蔑を籠めながら河合は優越感を籠めながら“悪役”へと言葉を続けている。周囲にいる同僚達も安藤を白眼視していた……SNSの投稿には現在の職場の住所まで記載されている。


「何で!?今更っ……」

「あん!?」

「何でだよ!?何で……ガキの頃の事でここまで言われないといけないんだ!?」

「おいっ!?落ち着けよ!!」

「子供の頃の俺が馬鹿だったって……今では分かるよ!でもっ……俺達も散々殴られたんだぞ!!」

「知らねぇよ……暴力は確かにダメだけど、俺もカミさんと子供がこんな死に方して揶揄されたら俺でも手が出るわ」

「!?」


“相手がガキでもな”と河合は冷たい眼差しを安藤へと向けながら人気俳優への共感を述べている。それから、一応は先輩として馬鹿な後輩へと警告を告げる。


「いいか……お前が罪悪感を覚えていないのかは勝手だけど、これ以上は余計な事をするんじゃないぞ?自分の身が可愛かったらな?」

「……はい」

「世間からしたら、お前らは悪役なんだよ……母親と妹を眼前で亡くしたって不幸を乗り越えて役者としての成功を手に入れた少年の物語のな?」

「……」

「お前らには、彼の成功を喜ぶ振りさえも赦されていないって事なんだよ……解かるな?」


“まぁ……そんな気持ちは無いだろうがな?”と河合は冷たい眼差しを安藤へと向けてから自分の席へと戻ったのだった。周囲の人々は彼の“いない者”として扱っている。人は誰もが自分の人生の主人公ではあるが……主役とは客観的な立場であり、その人間が“主役”かどうかは周囲の人々が決めるのである。





それ故に……『安藤守』という男はこれから日本中の人々から悪役として扱われる事となった。





・・・・・

・・・・

・・・

・・




《飛騨影児氏……アカデミー主演男優賞を受賞!ハリウッド進出から5年目の快挙です!!》

《破修羅シリーズの映画版で受賞した藤堂征十郎氏に続いて二人目です!!》

《流石……響プロダクション作品に起用される俳優は強いですね~!次の出演作品も決まっているんでしょう?》

《響先生が文壇を制覇した純文学作品『アシュリー・エインズワース』の映画版の出演が決まっているみたいですね》


スマホ画面には“アイツ”の話題で持ち切りであった……“アイツ”は初主演映画が大成功を修めた後、ハリウッドへと進出してアクション俳優として順調にキャリアを重ねていたのだった。そして、先月に世界アカデミー主演男優賞を受賞して故郷に錦を飾ったのである。そのニュースを“悪役”は自室で見ていた……自分達はコイツの物語の“悪役”……便所の糞みたいな馬鹿な小物だと“主役”が成功する度に世界中へと個人情報を拡散されていた……“忘れるな”と言わんばかりに住所、職場、電話番号、メールアドレスまで全てを特定されている。最近読んだ漫画や小説で自分達をモデルにした場面さえも存在するらしい……


《“最低な人間”……皆もこんな風にみ・じ・め♪な人間にならないようにな♪》

《迷惑系YouTuberじゃあるまいし……ならねぇよ♪》

《俺じゃなくて良かったぜ……誰かのサクセスストーリーの脇役にしか為れない人生になんてな?》

《やっぱ!DQNは百害あって一利なしだわ♪》

《コイツの住んでいる場所……俺の住んでいる場所の近くだな?》

《あっ……この人のいる職場って…私が勤めている会社のお得意先だわ……確か、裏方仕事に回されたって聞いた事がある》

《流石に解雇はされていねぇか……子供の頃の事だしな》

《あぁ……飛騨の母親と妹をぶっ殺したクソガキだって少年法の所為で事故扱いで放送されなかったみたいだしな》

《でも……親にも見放されて……SNSでは晒されまくった末に自殺か……いい気味だぜ♪》

《聞いた話じゃ……飛騨さんのファンらしき連中から袋叩きにされた事もあるらしいぜ?》

《それは流石にやり過ぎだと思うがな》


自分の馬鹿さ加減で“鬼”にしてしまった相手が社会的に栄達して行くのを世界中の人間から比べられた事で自己肯定感を潰された“悪役”は脱殻の様に生きていた。恋愛や結婚をせず、毎日を生き永らえる為の仕事をして生きており、社会の片隅で生きていた。自分が“馬鹿”だと開き直る事も出来ず、“忘れるな”や“お前は悪役だ”と世間から名前と顔を曝され続ける日々……貼られた“レッテル”を剥がす努力も出来ず、“主役”の強さから“レッテル”を剥がす力も無い。


「もう勘弁してくれよ……俺が悪かったのはもう知っているから……死ぬまでこうなのかよ?」


安藤守は生気の無くなった表情でそう呟くと……SNSを閉じたのだった。結局、安藤守という男の名前は伝説のアクション俳優『飛騨影児』の物語に登場する“悪役”として電灯の下で落ちている蛾の死体みたいに死んだ後も遺る事となった。

“人は誰もが自分の人生の主人公ではあるが……主役とは客観的な立場であり、そいつが“主役”かどうかは周囲の人々が決めるのである。”がもう一つのテーマです。

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