3.物語の英雄に憧れてます
「ただいま…」
「おかえり、父さん」
夜、鉱山から父さんが帰ってきた。
父さんは疲れてるだろうに俺を軽々と抱えあげる。汗をかいてるのに、商人のおっさんとは違い臭く感じない。
「あなた、おかえりなさい」
「ただいま」
そういって2人は…えっと、確か物語だと…
「唇を重ねる?」
「「なっ⁉︎」」
2人は慌てて照れながらサッと離れた。
♢
父さんは風呂から上がると1人夕食を食べる。俺と母さんは既に食べ終えた後だ。
「今回もまぁまぁの収穫だ。村長もまだあの辺りから沢山採れるだろうってさ」
「良かったわ」
父さんは鉱山夫という、鉱石を掘る仕事をしている。こんな辺境でも領主はおり、村の税はお金の代わりに資源…つまり鉱石を納めている。つまりこの村は鉱石が取れなくなったら死活問題で、税を払えなくなるのだ。
因みにだが、この村の男衆は一部を除いて基本的にはみんな鉱山夫だ。それ以外の人は別の事で村に貢献している。狩猟や物作り、鍛治などで。
「じゃあ新しい本買ってくれる!」
この頃の俺はそんな両親の気苦労など知らず、無邪気に新しい英雄物語の本をねだるばかりだった。
「おう、任せろ!」
「もう、あなたったら。ユーマに甘いんだから」
♢
次の日、俺は朝早くからダラダラしてる商人のおっちゃんの所へ来ていた。
「ユーマよ〜…」
「何、おじさん?」
うーん、どの本買おうか迷うな。
「なんか儲かる話はないもんかねぇ?」
「5歳児に愚痴ってる様じゃ儲からないだろうね」
おっちゃんは、たははって顔をしていた。
「ユーマは厳しいねぇ」
「村の鉱石を売ったら儲かるんじゃない?」
「あ〜鉱石ねぇ〜、ありゃ領主に納めてるモンだからな〜俺が商売にしたらこれよ」
おっちゃんは首を切る様な仕草をした。
「じゃあ、おっちゃんが鉱床を見つけて自分で掘って自分で売ったら?」
「いやいやいや、そんな重労働おっちゃん死んじゃうって」
これだからおっちゃんはモテない。
「じゃあ父さん達に掘ってきてもらう?」
「それがね〜昔お願いしたのよ〜そしたらね〜毎年、税と生活の費用分でギリギリなんだと〜」
じゃあ本代はどこから?
おっちゃんと目が合った。
「この村で本を買うのはユーマだけなのよね〜どっからお金を賄ってるんだろうね〜」
初めておっちゃんが少し怖いと思った。
「あ〜つまり…ホントは納めてる分以上にめっちゃ稼いでるけど、おっちゃんとは商売したくないって事か〜」
「あ〜そういう事ね〜…やんわりと断られてたって事ね〜」
おっちゃんの雰囲気がいつものだらしない感じに戻った。
「じゃあ俺が将来英雄になったら、おっちゃんを専属商人にしてあげる」
「……はいはい、ありがとね〜期待せずに待っとくよ〜」
おっちゃんはめんどくさそうに手をヒラヒラとさせていた。
「そうだ、ユー坊」
「何?」
「村の反対の外れにいる爺さんいるだろ?」
「うん」
「噂だと昔すっげ〜剣士だったらしいぜ〜」
「ホント?」
「ああ噂だけどな。将来英雄になるなら師匠とかいるんじゃねぇの?」
「ありがとおじさん! 行ってみるね!」
俺は急いでお爺さんの元へ駆けていったが、途中でピタリと動きを止め振り返った。
「おじさーん!」
「ん?」
「英雄になったら女の人紹介してあげるねー!」
「はいよー! 期待しないで待っとくよー!」
♢
「期待…して待っとくよ…」




