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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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72話

 目の前に現れた強大な気配に、兄はとっさに私の前へ出て、身を挺して守ろうとした。だが、そこにあったのは真っ白な卵だった。


 両腕でようやく抱えきれるほどの大きさの卵。その卵は、まるで安心するかのように、私の持つ鱗へと身を寄せてくる。


(もしかして……この卵は、ドラゴン夫婦の卵⁉︎)


 だが、なぜこの卵が迷いの森から現れたのだろう。魔王から教えられていた方角とは、少しずれている。


〈シャーリー、これ……卵だよな〉

〈ええ、間違いないわ〉

〈どうして森から出てきたんだ? 村の中のどこかにあるんじゃなかったのか〉


 兄と念話で話していると、杖をついた村長が息を切らしながら駆け寄ってきた。そして、卵に手を伸ばす。


「それは、数か月前に森の守りの手前で見つけた……わしの卵じゃ!」


 だが私は、奪われるより早く卵を抱え上げ、空に向かって声を張り上げた。


「見て! あなたたちの卵が見つかったわ!」

「そうだ、卵だ!」


 兄の声が重なると同時に、空を舞っていたドラゴン夫婦が歓喜の咆哮を上げたとたん。台風のような突風が吹き荒れ、卵は導かれるように宙へ浮かび、親の元へと引き寄せられていく。


〈ありがとう、魔女。使い魔よ。魔王様へ、このことを伝えに行く〉

〈嬉しい……本当にありがとう〉


 念話でそう告げ、ドラゴン夫婦はリィーネの森の方角へと飛び去っていった。


 こうしてドラゴン夫婦の卵探しは無事に終わった。だが、卵を失った村長は、明らかに不満げだった。


「わしの卵を返せ!」


「卵は持ち主のところへ帰っただけよ。それに、あなたがあの卵を隠し持っていたせいで魔物が引き寄せられ、他の村にまで被害が出た。迷惑をかけたのは、あなた自身よ」


「うるさい! あれは欲しがっていた商人に売る手筈だったんじゃ!」


 大きく珍しい卵だ。確かに、高値がついたかもしれない。けれど、もしその事実をドラゴン夫婦が知っていたら、北の大地は消し飛んでいただろう。


 瘴気に満ち、誰も住めなくなる未来。

 私は、そのことをあえて口にはしない。


「もういい。卵は諦める。その代わり、対価をよこせ。お前は魔女だと言ったな? 魔女の物を何か寄越せば、許してやる」


(……魔女の物? あらあら、ずいぶん大きく出たわね)


「いい加減にしろ!」


 怒鳴ったのは兄だった。


「何度も魔女に助けられておきながら、まだ要求するのか!この村で風邪が流行らなかったのは、魔女の薬のおかげだと分かっているだろう!要求を繰り返していたのは、この村だけだ!」


(え……? 熱冷ましを、何度も?)


「それは仕方ないですじゃ。村人が苦しんでおるのですから」


 さも、当然のように言い放つ村長。

 彼は卵を売ろうとしていて、魔女の支給品まで商人に流していた……?


 この国に住む者しか受け取れない、魔女の支給品。それを他の国に売れば、多額の金になるが、明確な契約違反だ。


「それだけではありません」


 そう言って前に出たのは、魔法使いのアルバートだった。彼の後ろには怯えた様子の少女を連れていた。


「いやぁー、ミヤ!」


 悲鳴のような声を上げ駆け寄って、両親が少女を抱きしめた。少女は大泣きして両親に抱きついた。


「お父さん、お母さん」


「ミヤ、よかった……!」

「ミヤ……!」


 アルバートはそれを眺めながら私の前まで来ると、どかりと地面に腰を下ろして、魔法の玉に封じられた首飾りを差し出した。


「魔女、これを見て」


 差し出された首飾りには、赤と青の石がついて、それを確かめる。なんと石には魔物寄せと、魔法遮断の魔法がかかっていた。

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