69話
魔力を回復した私は兄を見て、声を張り上げた。
「兄! 体力アップ、攻撃力アップ、防御アップ、全部かけたから、魔力吸いの動きを止めて!」
「了解!」
兄は一気に距離を詰め、魔力吸いへと突進した。体当たりを受けた魔力吸いはよろめいたが、すぐに口を大きく開き、鋭い牙の間から黒くヌメヌメした液体を吐き出す。
兄はそれを素早く跳んで避けると、前足の爪をグッグッと鋭く伸ばした。
次の瞬間、爪が閃き、魔力吸いの体を容赦なく切り裂く。
「グッ――!」
魔力吸いは痛みに怯み、大きな体を反らせた。
(今だ!)
私は杖を強く握りしめ、魔力吸いへと駆け出す。兄の背を踏み台にして跳び上がり、狙いを定めた。
「そりゃっ! ありったけの魔力を喰らいなさい!!」
内側の柔らかい皮膚へ、杖をブッ刺す。そこから一気に魔力を流し込むと、魔力吸いの体が不自然に膨らみ始めた。
長い胴体が、魔力を吸い込み、みるみるパンパンに膨らんでいく。
――それでも、私は止めない。
「グェェェーー!!」
悲鳴のような鳴き声。
こいつの限界が近い。
私は慌てて周囲を見回し、叫んだ。
「ローサン殿下! 騎士団長! 魔導師長! 兄も! はやく私から離れて!!」
「魔女?」
「何が起きる?」
「どうなるのか、楽しみです~」
「シャーリーも離れろ!」
……誰一人、動かない!?
「ちょっと!? 逃げてよ! こいつ、今から爆発するんだから! しかも臭い液体が飛ぶって!! 臭いがついたら落ちないってぇ!」
必死に叫ぶ。
「なんで? 私、もう魔力ほとんど残ってないの! 結界を張れるだけの魔力残ってないから、張れないってば!!」
あと少し、こいつに魔力を吸わせれば確実に爆発する。
もう、教えたからね。
私は知らないよぉ。
こいつの液体、本当に臭いからねぇ。
兄も知ってるでしょ!?
「パァァァーーン!!!!」
ひどい破裂音が村中に響く。
私の魔力を吸い込みすぎた魔力吸いは、限界を迎え、パンと弾け飛び。あたりに肉片と、黒くヌメヌメした液体を、雨のように撒き散らした。
一番、最悪なのは必死に逃げろと言ったのに、誰も逃げなかったから……液体で真っ黒でヌメヌメなみんながいる。
⭐︎
カロン村に現れた魔力吸いを爆発させた私たちは、例外なく黒い液体にまみれていた。
それも、ただの液体じゃない。
鼻を殴るような、強烈な悪臭付きである。
「……魔女の言っていた通り、これは臭いな……」
「鼻が曲がる臭いだ……」
「うーん、まだ平気な臭いだね」
感想は三者三様。
「シャーリー!! はやくシャボンの魔法をかけてくれ!! 臭い!! 耐えられん!!」
一番最初に悲鳴を上げたのは、やはり兄だった。この中で一番鼻がいい兄は、顔をしかめ、全力で悶えている。
(兄より私の方が、どう考えてもたくさんかかってるんだけど……)
「シャーリー!」
「はいはい。今かけるから、ちょっと待って」
ため息をひとつ吐き、手についた魔力吸いの液体をぶんぶんと振り払い、ポシェットから薬水を取り出し一気に飲み干し魔力を回復した。
「――ほぉれ、『シャボン!』」
魔法を唱えると、次の瞬間。みんなの体が、もこもこ、ぶくぶくの泡に包まれていく。その泡は体についた黒い液体と悪臭を、少しだけ洗い流した。




