68話
私の異変を感じた兄が速度を上げ、アルバートから距離を取った。
〈シャーリー、大丈夫か?〉
〈兄ぃ、怖い〉
〈だから言っただろう、あいつに近づくなって! もう少し速度を上げるから、しっかり掴まれ〉
兄の背に乗る私が捕まると、兄は速度を上げアルバートから距離を取った、その様子を、アルバートは興味深そうに眺めていた。
「へぇ、使い魔と意思疎通しているのかい?」
アルバートはますます、楽しげに微笑む。
だがその目は、相変わらず私から離れない。
「シャーリー、君は見た目も可愛いし、魔法、魔力も半端ない。僕のところへ来ないかい。一緒に暮らそうよ。そうだ、結婚して……」
「いい加減にしないか、魔術師長アルバート!」
低く、はっきりとした声が、彼の言葉を遮った。その声を出したのはローサン殿下だった。
「今は作戦中だ真面目にやれ! それと、魔女への執拗な接触はやめなさい。彼女が怖がっているぞ」
「はーい。終わってからにします」
魔法使いアルバートはわずかに距離を取る。けれど、その視線の奥に宿る光だけは消えなかった。
〈兄、魔法で眠らせてもいいかな?〉
〈いいんじゃないか?〉
〈いいよね〉
あまりにもしつこい場合は、アルバートとを眠らせようと決めた。
⭐︎
小麦畑の道を進み。次の村、カロン村が見えてきた。先に寄ったアーミ村と同じ低い家々と、ところどころ崩れた柵が目に入るが人影は少ない。
「……静かですね」
騎士団長ミハエルが呟く。
「アーミ村とは違い、人がいないな」
(なんだか、嫌な予感がする)
私は杖を握り地面に突きさし、地中を探索した。ここに中いる。地面が低く唸り、村の中央付近の地面が、大きく盛り上がった。
〈シャーリー、出るぞ!〉
兄の叫びと同時に地面が割れ、黒くぬめる巨大な、ナメクジに似た魔物が姿を現す。私は兄から降りて杖を握り、騎士団長ミハエルはローサン殿下を守りながらその横で剣を構え、目の前の魔物を睨む。
「アースワームか?」
「いいえ、これは迷いの森の奥に住む魔力吸い。本来は親指くらいの小さな魔物だけど、魔力を吸って大きくなったのね」
〈ねぇ兄、久しぶりに魔力吸いを見たけど、あいもかわら気持ち悪い〉
〈ほんとうだな〉
兄と喧嘩をした日、ご飯を残した日、母が出した宿題を忘れた日。母は魔法吸いを見つけてきて、私と兄の魔法を罰としてこいつに吸わせた。
液体はヌメヌメして気持ち悪いし、噛まれると痛いし、痒くなる。この魔物には殺意しか浮かばない。
「魔女、気をつけて」
「そうだよ、気をつけて」
「大丈夫です殿下、魔法使いアルバート。この魔物の倒し方を知っています。お腹いっぱいに魔力を吸わせればいいんです!」
私はポシェットに手を突っ込み、薬水の瓶を取り出し飲み干した。




