67話
〈そうだ兄。ドラゴンの鱗が反応しなかったから、この村に彼らの卵はないわ〉
〈じゃ、次の村だな〉
石壁を作り終えた私は、兄と並んで村の中を歩く。
初めて目にする魔女の魔力に、村人たちは皆、驚きを隠せない様子だった。それはローサン殿下も同じだったようで、アーミ村を囲む石壁を見上げ、思わず息を呑んでいた。
「これはすごい……。この立派な石壁があれば、この村に魔物は侵入できまい」
その言葉に、騎士団長がうなずいて続ける。
「ええ。あれほどの規模の石壁を、あんな一瞬で作り上げるとは。魔女を敵に回せば、相当厄介ですね」
「魔女が敵になる? それは契約上、ありえないと思うが」
ローサン殿下の言葉に、騎士団長は肩をすくめた。
「そうとも言い切れません」
魔力を認めてくれるのは素直に嬉しい。
けれど、行いさえ間違えなければ、魔女は敵になどならない。二人の会話を横目に聞き流しながら、私は兄に問いかけた。
〈兄、魔物の様子はどう?〉
〈今は落ち着いているな。ただ、空にいるドラゴン夫婦の動き次第で、状況は変わる〉
〈それは困るわね。早く卵を見つけないと〉
村人の救助も大切だ。
だが、ドラゴン夫婦が動き出せば、すべてが一気に崩れる。騎士や魔法使いたちを待っている時間が、どうしても惜しかった。
「ローサン殿下。私たちだけでも、先に次の村へ向かいませんか?」
アーミ村を含め、三つの村すべてに石壁を築いてしまえば、あとは魔物を駆除するだけだ。その後で支援や治療を行えばいい。
「そうだな。では先に村を周り石壁を作ろう」
殿下は即断した。
「僕と騎士団長ミハエル、魔導師長アルバート、魔女と使い魔は次の村へ向かう。副団長リチャード、あとは頼んだ」
「かしこまりました」
私が作り上げた石壁を前に、誰一人として異を唱える者はいなかった。
⭐︎
アーミ村を後にした私たちは、小麦畑の中を抜ける道を通り、次の村へと向かっていた。
その道中、魔導師長アルバートが、何か言いたげにホウキで後をついてくる。
あまりにも視線を感じて、私は思わず声をかけた。
「あの……何か言いたいことでもあるんですか?」
「いやぁ。さっきの魔法があまりに見事でね」
彼は素直に私を褒めた。
「あんな一瞬で村の周りに、石壁を作るなんて……さすが魔女だと思ってね。実に興味深い」
「興味は持たなくていいです」
「嫌だね。ますます魔女を知りたくなったよ」
そのときのアルバートの目はあの日、令嬢の部屋で見た目を同じで、私は背筋がゾッとした。




