35話
「その妙な魔法使い、俺が見てこようか?」
兄はすでに獣化し、魔獣の姿で伯爵家まで駆けるつもりらしい。けれど私はすぐに、必要ないと首を振った。
伯爵家に、偵察鳥を残してきている。鳥を媒介にすれば、転移魔法陣を張って直接向かうこともできる。
――まあ、魔力の消耗は大きいけど。でも、不可能ではない。
さっき踏み切らなかったのは、伯爵令嬢の姿さえ確認できれば、十分だと思っていたからだ。けれど令嬢の部屋には、正体不明のただ者じゃない魔法使いの男がいた。
私は念話に切り替えて話す。
〈あの魔法使いの男、相当な魔力を持っているように感じたわ。でも、そんな魔法使いが、どうやって伯爵令嬢と知り合ったのかしら?〉
〈魔女、それなら僕が知っている。ここ、王都にあるタンタナ学園の魔法科では生徒一人につき、魔法使いを一人同行させる決まりなんだ〉
〈学園に、魔法使いを同行?〉
〈そう。選んだ魔法使いと共に、魔法を学ぶらしい。そうすれば魔法の暴走や、魔力暴走を抑えられるからね〉
〈そうなんですね〉
理にかなっていると私はうなずく。
〈だからローラ嬢の部屋にいたのは、彼女が選んだ魔法使いだね〉
〈令嬢は、随分と厄介な人物を選んだものだわ〉
あの男は“愛を知る”ための実験台として、第一王子に恋をする、彼女に近付いたのだろうか。
気にはなるけれど。あの薄気味悪い魔法使いの、思考は知りたくない。たぶん知っても、わからないと思う。
〈じゃ、このあとどうする? このままだと、その令嬢……危ないんじゃないか?〉
〈ええ、兄の言う通りだと思う。少し気が引けるけど、転移魔法を使って伯爵令嬢に会いに行くわ〉
兄との念話を聞いていた殿下が、口を開いた。
〈なら魔女、その転移魔法に僕も連れて行ってもらえないか? 姉上が気になる〉
その瞬間、兄の目が鋭く細まる。
〈ダメです、ローサン殿下。転移魔法は人が増えるたび、消費魔力が跳ね上がります。……はぁ。仕方がない、俺が魔獣の姿になり背中に乗せて伯爵家まで走ります。それでどうですか?〉
〈ええ! 兄の背中に乗せる? それはだめ。私が魔法で連れて行くわ〉
私だって、まだ一度も乗ったことがないのに。
そんな羨ましいこと、許せるはずがない。ずるい。
〈シャーリー、無理しなくていい〉
〈大丈夫よ。もう決めた、私が転移魔法で兄と殿下を送るわ!〉
一度決めたら聞かない私に、兄は深くため息をついた。




