33話
〈へぇ、これが念話か。二人はこれで、僕に聞こえたい会話をしていたんだね〉
柔らかな声音とは裏腹に、言葉の端々に棘が潜んでいた。私も兄も反論できず、ただ黙ってうなずくしかない。
だが、魔女や魔法使いに関する話まで聞かれるのは、やはりまずい気がした。
(だけど、これ以上ローサン殿下を怒らせて、なだめるのに時間を取られるのは避けたい)
何より、まだ“あの女性”を確認できていない。
王城、第一王子殿下の私室を訪れた彼女は、今どうなっているのか。そのことが、胸の奥に重く引っかかっている。
〈兄、いまから魔法を変換します〉
〈……わかった〉
偵察鳥を木から羽ばたかせ、窓の外へと移動させる。私は杖を強く握り、距離を置いたまま魔法を発動した。
本来なら、屋敷まで出向いた方が効率はいい。離れた場所からの行使は、魔力の消耗が倍になる。
それでも。先ほど見た彼女が霊体だとしたら、迷っている時間はない。そんな予感だけが、妙に確信めいて胸を締めつけた。
「《魔法転換》」
伯爵家の窓に張られた魔法陣を、魔女術式へと書き換える。こうすれば魔法陣を破壊せず、偵察鳥を中へ侵入させられる。
魔女術式に変わった魔法陣を通して、私は偵察鳥を部屋の中へ滑り込ませた。
――え?
そこにいたのは、この部屋の主ではない人物。真っ黒なローブを纏った、長い真っ白な髪の男性が漆黒の杖を握り、ベッドのそばに腰を下ろしていた。
「誰……? 君は、誰なの!」
ビクッと体が動き、思わず声が漏れる。
それに反応して、そばにいた兄と殿下が振り向いた。
「シャーリー、どうした?」
「魔女?」
〈きゅ、急に声を出してごめん。今、魔法転換して鳥を入れたら……その令嬢の部屋に白い髪のローブ姿の男がいたの〉
気持ちを落ち着かせて、書庫の外に控える、騎士たちに聞こえないよう、念話に切り替える。偵察鳥越しに見るローブの男性は、鳥が見えたのだろう、こちらを正確に見据え杖を強く握り直した。
――見られている、こちらから話しかけてみるかな。
〈兄、いまから男に話しかけてみる。しばらく意識を鳥に移すわ〉
〈おお、気をつけろ。何かあったら、すぐ合図しろ〉
〈魔女、無理はしないで〉
私は魔力を流し、兄が体を支えたのを感じて、自分の意識を完全に偵察鳥へ移す。そして、目の前のローブの男へと声をかけた。




