32話
兄に言われ、改めて窓へ視線を向ける。
そこには私が使う術式とは、明らかに系統の違う魔法陣が浮かんでいた。
ーーああ。これは、少し厄介かもしれない。
私の中で“魔法使い”といえば、森に召喚獣を置き去りにしたまま姿を消し、結果として母と私に迷惑ばかりかけた存在だ。
私が壊した魔法陣は古くて、壊れたものばかり。それは、偏った印象だと分かってはいるけれど、正直、彼らについての知識は乏しい。
だからといって、他の人よりは魔力量は多い、兄に頼りきりになるのも気が引ける。これ以上、負担をかけたくなかった。
……仕方がない。
〈魔力変換を使って、魔法陣を書き換える〉
〈はぁ? おいおい、シャーリー。また魔力を使うつもりか〉
〈だって、魔法使いの術式と私の魔法は根本から違うの。このままじゃ魔法に邪魔をされて、部屋の中すら覗けない〉
窓を守るように展開された、見知らぬ魔法陣。これを突破するには一瞬だけでも、自分の魔力を魔法使い寄りへ変質させるか。
あるいは、この術式そのものを魔女式へと書き換えるしかない。
魔法による侵入を拒む、強固な結界。
それでも、部屋の中が見えなくて、女性の身を思うと、躊躇はできなかった。
〈やめろ。遠慮なく、俺の魔力を使え〉
〈嫌よ。大丈夫だって〉
〈無理してるのがわかってるから、言ってるんだ!〉
〈自分のことは自分でわかります。黙っていてください〉
〈わかってない。俺はシャーリーの使い魔だ、お前の異変くらい嫌でも伝わる〉
――あっ。
そうだ。兄は使い魔だから、私の体調も魔力の乱れも、隠しようがない。
念話の中で荒ぶる感情に呼応するように、現実の兄が苛立ちを抑えきれず、テーブルを強く叩いた。ダンと、乾いた音が室内に響く。
言葉を交わしていないはずの二人。
それでも異変は伝わったらしく、殿下が眉を吊り上げて声を上げた。
「魔女! 僕を除け者にして、二人だけで話すのはずるいぞ!」
……これは、もう集中どころじゃない。
私は近くの木に偵察鳥を止まらせ、魔力を一度、ゆっくりと解いた。
「ローサン殿下、申し訳ありません。これは秘密事項で、二人でしか出来ない会話なのです。どうかお許しください」
「嫌だ! 兄上のことだ、秘密事項などあるはずがない! 僕にも分かるように話せ!」
いつもより感情を露わにするローサン殿下に、思わず言葉を失う。
私は兄と一瞬だけ視線を交わし、無言で合図した。そして、殿下を念話へと招き入れる。




