29話
「いや、姉様には兄上とは別の婚約者がいたはずだ。それなのに、なぜ姉様が兄上の部屋に……。まさか、二人は愛し合っていたのか?」
ローサン殿下はそれ以上、言葉を続けず、静かに黙り込んだ。
あの二人が深く想い合っているのは、きっと間違いない。だが、私の目に映った真っ白な女性はおそらく霊体。ということは彼女はもうこの世にいない? それを知り第一王子殿下は、ショックで寝込んでしまったのか。
(だけど、二人はそうしてでも会いたい?)
〈ねぇ兄上……あの二人は、恋人同士だったの? それとも……〉
〈さあな。愛し合っていたのは確かだろうが……眠ったままの王子殿下と、真っ白な女性。引き裂かれた二人、なのかもしれないな。――ところで、怖くはないのか?〉
〈怖い? 足はガクガクしてるし、正直怖いよ。でも……二人には、あんなにも想い合っているのに〉
「兄上……なぜ……」
ローサン殿下の声が、震えた。
「父上と母上の前で、どうしてあの時言わなかった。好きな人がいると……姉様が好きだと。みんな、二人を祝いたかったんだ!」
そう叫び、殿下は部屋の扉に手を伸ばした。
だが、その手を兄が強く掴み、扉から引き離す。
「魔女の使い魔、何をする!」
「二人の邪魔をするな。いきなり踏み込んで、もしものことがあったらどうする」
「しかし……兄上が目を覚ましたんだ! 兄上に、僕は――」
込み上げた言葉が、喉で詰まる。
「……ぐっ、すまなかった」
殿下はそれ以上、何も言えずに俯いた。
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「あの、ローサン殿下……いったん書庫に戻りませんか。戻って、きちんと話し合いましょう」
私は「行こう」と声をかけて魔法を解き、そっと殿下の手を握った。殿下は一瞬、私の指先を見つめて、それから小さくうなずく。
「……ああ、戻ろうか」
そうして私たちは書庫へ戻り、私は殿下に、あの女性について話を切り出した。




