28話
真っ白な女性が消えたあの部屋を、殿下は「第一王子殿下の部屋だ」と言った。
母から聞いている話では、第一王子殿下は王都の学園を卒業してから三年間もの間、ずっと眠ったままだという。
私がまず考えたのは、呪いの類か、あるいは眠り病。しかし、どちらもすでに母が徹底的に調べ尽くしている。
(母は言っていた。呪いでも病気でもなく、第一王子殿下は、ただ眠っているだけだ、と)
現在、殿下は母の作った栄養水によって命を繋いでいる。私もその作り方は知っているが、まだ数年は持つと言われているため、今のところ作る必要はない。
「魔女、兄上の部屋の前まで行ってみよう」
「はい」
声を潜め、私たちは第一王子殿下の部屋の前まで進んだ。
そのとき――。
眠っているはずの殿下の部屋から、話し声と、確かに“笑い声”が聞こえてきた。
「……兄上の目が覚めたのか? なら、話ができるのか?」
中の声を聞いた瞬間、ローサン殿下が私の手を強く握った。今にも扉を開けてしまいそうな、その衝動が伝わってくる。
私は慌てて、握り返した。
はっとしたように、殿下がこちらを見る。
「殿下、まだ中の様子がわかりません。真っ白な女性が私たちの存在に気づき、第一王子殿下に危害を加える可能性もあります。どうか、今は落ち着いてください」
「……すまない、魔女」
「いえ。では、魔法を使いますので、手を離しますね」
手を離し、私はアイテムボックスを開いた。中から、杖を収納しているツールロールを取り出す。
母は杖一本で様々な魔法を使いこなすが、魔力量が多く、それを上手く制御できない私は、用途ごとに杖を分けている。
(ここで使うのは、筆式の杖)
筆のように毛先のついた杖を取り出し、第一王子殿下の部屋の扉へ向ける。
「《中の様子が見たい》」
魔力を込めて円を描くと、その円が淡く光り始め、中の様子が映し出された。
「これで大丈夫です。普段はプライバシーの侵害になるため使いませんが、今回は緊急事態です。殿下にも見えるよう魔法をかけました。……では、中を見ましょう」
こくりと頷いた殿下と兄とともに、私たちは扉に浮かぶ光景を覗き込んだ。
「……え」
思わず声が漏れる。
ベッドの上で、第一王子殿下が真っ白な女性を膝に乗せ、横抱きにして抱きしめていたのだ。
「なっ……!」
「兄上……?」
「おお……」
咄嗟に、私は両手で顔を覆った。
それぞれの反応が重なり合う。部屋の中の二人はどう見ても、恋人同士にしか見えなかった。
「あの女性は……兄上と同い年で、幼馴染。仲の良い、マトローナ伯爵家のローラ嬢じゃないか?」
どうやら、殿下も知っている相手だったらしい。




