26話
気になるなら聞けばいい。そう思いながらも何も言えない。けれど、兄も同じことを感じているに違いない。書庫に戻ったらローサン殿下に話そう、そう決めた、その時だった。
書庫へ向かう回廊の途中、私たちの前を、真っ白なドレスをまとった女性が横切った。
(な、な、なに、今の……?)
「ぎゃあっ、兄!」
「うおっ!? シャーリー?」
隣を歩くローサン殿下にすがる間もなく、私は反射的に後ろを歩いていた兄に抱きついた。しかし、あまりに筋肉質な胸板に、今度は別の意味で固まる。
〈シャーリー、いきなり抱きついてどうした〉
〈あ、兄には見えなかった? 真っ白な女性が……〉
〈ん? 女性? いや、光る玉なら見えたが〉
〈ひぃっ、光る玉!? そっちの方が怖いよ!〉
ローブの中で、足ががくがくと震えた。
精霊や妖精なら平気だ。でも、幽霊の類は駄目だ。実体がなく、理由も分からない存在ほど怖いものはない。
「魔女、どうした? 何があった?」
兄に抱きついたまま動かない私を見て、殿下が心配そうに声をかけてくる。けれど、ここで“白い女性を見た”などと言って、信じてもらえるだろうか。
「すみません。シャーリーに光の玉が見えたと言ったら、怖がってしまって」
「光の玉だと? それは、どちらへ向かった?」
兄が前方の通路を指し、右へ進んだと伝えると、殿下は「ああ、それか」と頷いた。どうやら、彼もそれを知っているらしい。
「古い城だからな。昔から、夜になると見える」
「ぎゃあっ! ……って、昔から!?
でも殿下、今は夜ではありませんし、その女性、今時のドレスを着ていましたよ?」
「今時のドレス、だと?」
見えた女性の容姿を殿下に伝えた。すると、ローサン殿下の表情が、わずかに引き締まる。
「魔女、怖がっているところを悪いが、まだ見えるか、確かめてくれないか?」
かなり怖いが、私も気になる。だって、彼女の表情があまりに嬉しそうだった。それはまるで、好きな人に会いに行く様だった。
「私が、見るのですか……じゃ、お願いします。二人は手を繋いでください」
震える手を前に出した。




