24話
時刻はお昼頃。用事を済ませて戻ってきた殿下は、テーブルに積まれた記録済みの本を一瞥し、
「……僕も、魔法が見たかったな」
と、ぽつりと呟いた。
(あと一冊くらいなら出来そうだけど……今は少し休憩したいかも)
「ローサン殿下。魔法でしたら、お昼のあとにお見せしますね」
そう言って微笑むと、殿下の瞳がぱっと輝いた。
「本当か? それなら、先にお昼にしよう」
殿下は一緒に戻ってきた側近に、昼食の準備をたのむ。
その様子を見て私はふと思い出し、アイテムボックスから籠を取り出した。中には、昨日焼いたクッキーとアップルパイが入っている。
「殿下、その……昨日作ったものなんですが……」
「なに? それを魔女が作ったのか?」
殿下は籠の中を覗き込み、すぐに表情を綻ばせた。
「これは……クッキーとアップルパイか。なら、お昼のあとのお茶の時間にいただこう」
「ローサン様?」
側近が思わず声を上げるより早く、殿下は嬉しそうに私から籠を受け取った。
「キッコー、そんな顔をするな。魔女が作ったものだ。僕を狙うあの者たちとは違う」
「かしこまりました。ですが、規則は規則です。毒味をさせていただきます。この件につきましては、魔女様もどうかお気になさらず」
「はい、わかっています」
彼は殿下と私に一礼すると、側近は静かにその場を下がっていく。
その背を見送り、私たちは殿下に案内されて、庭園へと向かった。
⭐︎
ローサン殿下が案内してくれたのは、以前のお茶会とはまったく違う場所だった。視界いっぱいに広がるのは、真っ赤なバラが咲き誇る庭園。
「わ……バラが、とても綺麗」
「だろう? ここはいろんな種類のバラが咲く“バラ園”でね。僕のお気に入りの場所なんだ」
殿下はそう言って微笑むと、「さあ」と促し、バラ園の中央に用意された円形のテーブルへ案内した。そして当然のように私の椅子を引く。
殿下にそんな、使用人のようなことをさせてしまい、思わず焦る。けれど、向けられた柔らかな笑顔に、言葉がつかえて何も言えなかった。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。使い魔のヴォルフは、好きな場所に座ってくれていいよ」
「はい。では、こちらに」
殿下は私の正面に、兄は私の隣に腰を下ろす。ほどなくして、メイドが静かにカートを押してやってきた。
真っ白な器に盛られたスープ、分厚く切られた肉、卵と野菜を挟んだサンドイッチに思わずグウッとお腹が鳴る。
兄はククッと笑い、私は思わずお腹を押さえて頬を赤らめた。その様子を、殿下に優しくに見つめられる。
「魔女。お腹、空いたね。さあ、遠慮せずに食べて」
「いただきます」
「いただきます」
こうして、バラ園での昼食が始まった。




