8話「仄暗い穴の底から」~明智~
目が覚めると、そこは暗い井戸の中。
足元には燃え尽きた鎖や燃え尽きた謎の毛束のようなものが落ちていた。
俺は、意識を覚醒させ、手元のモノをボーっと癖で掴んでしまう。
「わっぷ! ゲホゲホ! こ、ここは!」
というか、水位が高く、足が地面につかない!
俺は慌てて、井戸のヘリに捕まり息を整える。
「すぅーはー! よ、良かった。俺が井戸ソムリエの資格を持っていて……どうにか生き残ることができた。ってさっき掴んだのは、金色の髪の毛……これはかつら? 冬季さんの私物だろうか。だがなぜこんなところに……というかなぜ俺はこんなところに!」
俺は、意識がしっかり戻るとそこは、井戸の中であった。
高さで言うと10メートルほどの高さであったが水位が高く、頭を打たなかったからか、俺は、自分の無事に安心をしたがまだ、だいぶ高さがあり上るには、骨が折れるだろう。
「だが、なぜ俺は井戸に落ちて……そっかあの子供部屋で……てかこの香り……」
探偵としての勘というか、以前毒殺での殺人事件の時に嗅いだことある臭い。
嗅ぐと、ふわりと頭に白いもやがかかる。
亜酸化水素ガス! 詰まる話が麻酔の効果のあるガスである。
「……」
ヤバイ、あまり嗅ぎすぎると、お酒を飲んだ時のように酩酊しだすガス。
このまま俺が気絶したらどうなるか。
早い話が溺死してしまう。慌てて俺は、息を止める。
「(俺は、素潜り世界大会優勝経験をする予定の男。思い出せユー〇ャンで習った息の止め方講座を!)」
俺はユー◯ャンで習った呼吸方法で、必要最低限の空気を吸うと息を止める。
一瞬頭がふわっとしたが、後この呼吸方法なら2回は正気のまま息が吸える。
後は、ユー〇ャンで習ったクライミング講座を思い出せ。
「……」
俺は、積み上げられた石に手をかけ、井戸を上りだす。
一歩一歩、滑りそうな岩を握力で無理やり掴むと着実に数メートル進んだ。
「(これなら、息を吸わなくても登れるぞ……よし!)」
そう思った瞬間であった。
カチッという音と同時に電流が水に流れ出し、そのまま勢いよく水位が上がってくる。
「(な、何だって! なぜいきなり井戸が増水を! 横を見るとそこには、パイプみたいなものが飛び出し、そこには、途中で切れたケーブルと水が流れている!)」
マズイこのままでは、俺は感電死してしまう。
全力で井戸を這いあがるが、水の勢いは増すばかり。俺の2メートル下は、電流の走る水。
迫る死の恐怖と、電流により帰化した亜酸化水素ガスが俺の鼻から入り、力が抜けていく。
「(ヤバイこのままじゃ!)」
死ぬ。
俺は、本気で死を自覚した時であった。火事場の馬鹿力というものは本当にあり、最後の力で井戸を這いあがりだすが……。
「(息が持たない……このままじゃ)」
残り2メートルほどなのにあと一歩なのに俺は死ぬのか……その瞬間、ユー〇ャンのクライミング講座の特別特典映像に出てきた講師の言葉が俺の頭をよぎった。
「(あきらめるな、何とかなる)」
俺は意を決して、最後の呼吸をする。
この呼吸は、ガスで俺が気絶しないギリギリの量であり、次息を吸ったら確実に酩酊し、電流の走る井戸にドボンだ。
「ネバ―! ギブアップ! マグマ……パワー!」
全力のジャンプ。
足に力を入れ、飛び上がる。クライミング講座で、死ぬ直前、最後にやるべき抵抗の回で出たパワージャンプ。
このパワーは、死にかけた時の生存本能により強化された筋力により跳躍。
最後は、鳥のように空を舞えるという。
もちろん下に落ちるとそのまま死んで幽霊としてあの世まで飛んで行く訳だが。
俺は全筋力をフルで使い井戸の出口を手で掴み脱出一歩手前。
「よしだっしゅ……、あ」
しかし、最後の踏ん張りがきかずに、掴んで手が滑り落ち、俺は、電流の流れる水に落ちかけた瞬間。
死。
明確な死を覚悟したのだが、俺の腕は、俺よりも細く小さい手に捕まれた。
「あ、明智さん何をやっているんですか!」
「す、スパイシーさん! い、今までどこに!」
「それより! 今あなた死にかけているんですよね! 良いですか! 勝手に引き上げますよ! やああああ!」
スパイシーさんが全力で俺を引っ張り上げる。
すると俺の体は、宙を浮くように投げ飛ばされ、肺の中に新鮮な空気が流れ込んでくる。
「すぅぅぅぅぅぅぅ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 生きてる! 俺、生きているよ! よか、良かったぁぁぁ!」
「ほ、本当ですよ! 明智さんまで死んでしまう所でしたよ!」
「いや、待て……その言い方だと俺以外にも死んだみたいな言い方」
いやな予感が脳裏を走る。
俺が今まで経験した事件の中でも連続殺人事件は、そこまで頻繁に起きない。
しかし現に殺されかけた俺がいるということは確実な連続殺人事件。
つまり……。
「東雲さんも殺されました。ですが犯人は、人ではなく……」
「やめ! この堕落女神……」
「また人が死んだの……か……」
俺は、体力の限界と麻酔が全身に回ってきて、全てを聞き終える前に気を失ってしまった。
『記憶を整理しろ。答えはそこにある』
飛ぶはずだった俺の意識は、黒い空間に飛ばされていた。




