第9話
港に近い物流倉庫の3階・・・・
チンピラ風の男が3人、男を取り囲むように座っている。
「もういい加減に話したらどうなんだ。そのうち痛い目にあうぜ・・」
黄色いTシャツを着た男が言った。
「そうですよ・・・我々も決してあなたに危害を加えようなんて思っちゃいない・・
ただね、我々も仕事なんですよ。ちゃんと話してもらわないと命の保障は出来かね
ますがね」
「いったい俺が何をしたって言うんだ!?」
「だから・・例のカバンがどこにあるかだけ分かれば私ら帰りますんで・・・
言ってもらえませんか?山田さん」
そういうと黄色いTシャツの男が山田の腹部に蹴りを入れる。
「うぐっ・・・・」椅子に縛り付けられた山田が呻いた。
ここに監禁されてからもう5日である。
まさか友人だと思っていた田中がこんな事をするなんて・・・
田中との出会いは1年前の事である。中川商事の創立30周年コンペにゲストとして
招かれていた。当時の田中は羽振りがよく、その後何度か梅田のクラブにつれて
行かれた。山田は酒は嫌いではないがクラブなどはあまり好きではない。
しかし中川商事にとって田中の会社は情報源としての価値があった。
飲みに行くうち、より親しくなり今回のベトナム赴任後も数回現地で遊んだりもした。
しかし彼の会社に数億の負債があることを山田が知ってしまうと、田中の態度は
一変した。
「田中、オレはいったいどうなるんだ?殺されるのか?」田中を睨みつけながら
言った。
「それは、君次第だな・・・・」そう言うと田中は階段を降りていった。
タクシーの中で2時間ほど待っていると1台のポルシェ・カイエンが建物の
前に停まった。
「ぢるさん今停まった車から降りた男を知ってます!・・・確か・・
中西だったと・・」
以前ティエンが山田に呼ばれ、田中という男と一緒にリゾート地の視察に行った
ことがあるという。
なかなか羽振りの良さそうな男で、帰りに寄ったクラブでは大金を使っていた。
その時この中西が途中から合流してきたというのだ。どうも田中の子分という感じ
だったらしい。
「何で中西がこんなところに居るんだろう?きっと何か知っているに違いない。
ぢるさん、もうしばらく様子を見てみましょう」
それから1時間程して、建物の中から後藤と中西が一緒に出てきた。二人は前に
停めてあった車に乗り込むと出かけた。
「後を追いましょう・・」ぢるの言葉にティエンは首を横に振った。
「ぢるさん 大都市ならまだしもこんな町で尾行したら怪しまれます。
それよりもこれで後藤と田中に関係があることがわかりました。
田中のことは調べればすぐ分かります。
一度ホテルに戻りましょう。ボクも事務所で調べたいことがあります」
リーとはランソンで別れ、再びハイフォンにあるホテルに到着した頃にはすでに
深夜になっていた。
翌日、ホテルのレストランで昼食をとっているとティエンから電話があった。
「ぢるさん 田中の居場所が分かりました。彼は今この国に居ます」
3時にロビーで待ち合わせ、2人は田中が居るというホテルに向かった。
「ぢるさん、ボクは田中に顔を知られています・・・これが田中の写真です」
そう言ってリゾート地を視察に行った時撮った写真をぢるに見せた。
「わかりました・・私にいい考えがあるわ。 きっとうまくいく・・・・」
「ぢるさん、くれぐれも無理はしないように」ティエンが心配げに言った。
田中はベトナムの首都ハノイに居た。Fホテルというディスコやカラオケバーを備えた・・・・見方によれば売春斡旋を公認しているホテルに宿泊している。
「ぢるさん何かあったら必ず電話してください。ボクは事務所に居ますか」
「大丈夫心配しないで。」ぢるはそう言うとホテルに入っていった。
「アイハブ・ノーリザベイション・・・ドゥユーハブ・・」ぢるが言いかけると
フロントが笑顔で「日本語大丈夫ですよ。ご1泊ですか?」
「すいません1泊です・・・」パスポートを提出し名簿に記入したぢるは、フロントに
こちに日本から来ている田中という男はいるかを尋ねた。
「8025号室です。お繋ぎしますか?」ぢるは後で自分で電話するからと言って
エレベーターに乗った。
7012号室・・・・ ぢるの部屋は田中の1階下である。
一息つくと8025号室に向かった。緊張で震える指でチャイムを鳴らす。
「だれ?」ドアを開けるなり男が言った。
「すっ、すいません。お友達の部屋と間違えちゃって・・・ごめんなさい!」
「そうなんですか・・・日本から?こんな時期に旅行ですか?」
「いえ・・・友人の家に遊びに来てたら震災で・・・・・電気とか使えなくって・・・
で、ホテルに泊まっているんです」ぢるはそう言うとにっこり笑った。
「それは大変でしたね。お友達は何号室?」
「7025号室です・・・一階下でしたね・・・・・・あっ、この近くに日本語が通じる
レストラン知りませんか?今夜お友達が外出しちゃうから・・・
私、言葉が話せなくって・・」ぢるがそう言うと
「じゃあ、もしよかったら一緒に食事しませんか?いいお店知ってるんですよ」
ぢるの思ったとおり男は乗ってきた。
部屋に戻りティエンに経緯を説明した。
心配するティエンに携帯で必ず連絡を入れることをぢるは約束した。
George Benson Quartet - Summertime
http://www.youtube.com/watch?v=lEjjL6CyBJI




